
困ったさん:わが社ではさまざまな社内コンペの機会を提供していますが、社員の男女比率に対して女性社員のエントリーが少ないことに悩んでいます。
コンペ参加には消極的でも、実は能力の高い女性社員が社内に多くいると思うのですが……。
佐々木先生:日本に限らず、女性は男性に比べて、競争的な環境を避けることが学術研究で知られています。重要なことは、いざ競争的な環境に身を置けば高い能力を発揮できる女性であっても、その機会を逃してしまっているという点です。
困ったさん:「争いごとを避けたがる」傾向は、世界中の女性に共通するのですね。
佐々木先生:この障壁を取り除き、本来の能力を生かしてもらうために、行動経済学の「デフォルト・ナッジ」が効果的であることが分かってきました。
作業の成果に応じた報酬を得るために、どのような報酬体系を選ぶのかといった実験がカナダの大学で行われました。報酬体系は、成果量に応じて報酬を得る「出来高制」と、成果量を他の学生と比較して、順位に応じて傾斜をかけた報酬を得る「トーナメント制」の2つです。他者との優劣によって報酬が変動する後者が、競争的な環境に当たります。
出来高制を初期設定(デフォルト)にして、トーナメント制を希望する場合は変更申請をする「オプトイン形式」で実験を行ったとき、男性では72.5%がトーナメント制への変更を希望したのに、女性は46.7%しか変更しなかったそうです。
一方で、トーナメント制を初期設定にして、出来高制に変更したい場合は申請をする「オプトアウト形式」では、男性も女性も約75%の人たちがトーナメント制を選択しました。
困ったさん:競争的環境に当たる「トーナメント制」を初期設定にすることで、女性の競争的環境への参加率が大幅に上昇したんですね!
佐々木先生:トーナメント制を選択する女性が増えたことで、結果的に女性全体で獲得する報酬額が増えたことも重要です。つまり、競争的環境で上位に入る優秀な女性でも、オプトイン形式では「出来高制」を選択してしまっていたことが分かります。
このように、申請のデザインを工夫することで、女性に限らず、多様な人たちが本来の能力を発揮できる場を広げられるかもしれません。
日本では「積極的改善措置」と呼ばれ、社会的・構造的な差別によって不利益を被ってきた人たちに対して特別な機会を設けることで、実質的な機会均等の実現を目指すために講じる措置を意味する。
女性議員や女性管理職の比率についてルールを定めたり、努力目標を設定したりすることは、競争的環境の好みに男女差があることに配慮した工夫だと考えることができる。
■ 人類×テックの未来 テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ
part1 未来を拓くテクノロジー
1-1 メタバースの登場は必然だった
宮田拓弥(Scrum Ventures 創業者兼ジェネラルパートナー)
column 1 次なる技術を作るのはGAFAではない ケヴィン・ケリー(『WIRED』誌創刊編集長)
1-2 脱・中央制御型 〝群れ〟をつくるロボット 編集部
1-3 「限界」を超えよう IOWNでつくる未来の世界 編集部
column 2 未来を見定めるための「SFプロトタイピング」 ブライアン・デイビッド・ジョンソン(フューチャリスト)
part2 キラリと光る日本の技
2-1 日本の文化を未来につなぐ 人のチカラと技術のチカラ 堀川晃菜(サイエンスライター/科学コミュニケーター)
2-2 日本発の先端技術 バケツ1杯の水から棲む魚が分かる! 詫摩雅子(科学ライター)
2-3 魚の養殖×ゲノム編集の可能性 食料問題解決を目指す 松永和紀(科学ジャーナリスト)
part3 コミュニケーションが生み出す力
天才たちの雑談
松尾 豊(東京大学大学院工学系研究科 教授)
加藤真平(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
瀧口友里奈(経済キャスター/東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー)
合田圭介(東京大学大学院理学系研究科 教授)
暦本純一(東京大学大学院情報学環 教授)
column 3 新規ビジネスの創出にも直結 SF思考の差が国力の差になる
宮本道人(科学文化作家/応用文学者)
part4 宇宙からの視座
毛利衛氏 未来を語る──テクノロジーの活用と人類の繁栄 毛利 衛(宇宙飛行士)