社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2021年10月30日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

東北学院大学経済学部准教授

東北学院大学経済学部准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師等を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。
 

[著書]
自治体の選挙管理に携わる、本日の困ったさん。特に投票率が低い若者世代に、投票に来てもらうには……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん直近の国政選挙である、2019年7月の第25回参議院議員通常選挙では、20歳代の投票率が30.96%と、世代間で最も低い水準でした(全世代投票率48.8%)。

 より多くの世代の意見を政治に反映するためにも、未来の社会を担う若者世代にこそ投票所まで足を運んでもらいたいのですが……。

佐々木先生たしかに、日本の若者には「投票に行くことが当たり前」という考え方があまり根付いていないですよね。子どもの頃から大人になるまで、日常生活の中で政治的な話を交わす習慣が少ないので、周りの友人・知人が投票に行っているのかどうかもよく知らないのかもしれません。

困ったさんそのような状況で、テレビやSNSで「若者の投票率が低い」というニュースなどを目にすれば、「自分も別に行かなくてもいいか」と思ってしまうんじゃないでしょうか。

佐々木先生逆に言えば、全体の投票率では低くても、「実は同世代でこれだけもの人々が投票している」と、人数の情報などを使って量感をうまく伝えることで、自分も投票に行こうと思いやすくなる可能性があります。

 人には、他者と同じ行動を取っていると安心する性質があります。周囲に対する認識を「投票に行っていない」から「行っている人も多い」に転換する工夫が必要です。

困ったさん低い投票率を責めることなく、共に投票しようと誘うわけですね。

佐々木先生その通りです。米国の研究では、近所の人たちの過去の投票行動を事前に知らせたグループで、その次の選挙の投票率が8.1%ポイント上昇したと報告されています。

 この工夫はなかなか強烈ですが、匿名性を担保し、同調圧力のような負担を有権者にかけていないかに配慮しながら、地域の人々や同世代の人々の投票行動をうまく可視化することの検討は大事でしょう。

困ったさんまさにわれわれ自治体職員の役割ですね! さっそく広報と連携して、発信の仕方を工夫してみます。

佐々木先生素晴らしいです。このような他者に関する情報提供は、省エネの促進や税金未納の防止にも効果があることが知られています。その他の分野にも活用できるかどうか、ぜひ検討してみてください。

 ひとくちメモ   ありがとうと伝える
「選挙に行くことは国民として当然の行為だ」という意見がある。だが、社会のために自分の時間を割く行動に対して、きちんと感謝の意を伝えることも大切だろう。
 米国のある研究では、過去の選挙での投票に対して「ありがとう」と伝えることで、次の選挙の投票率が3.1%ポイント上昇したと報告されている。
「批判」よりも「感謝」が人を動かす。『北風と太陽』の寓話に倣うべきだろう。
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PART2 おぼろげな46%減を徹底検証〝野心的〟計画は実現なるか
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永井雄宇(電力中央研究所社会経済研究所主任研究員)
PART3 高まる国家のリスク それでも再エネ〝大幅増〟を選ぶのか
山本隆三(常葉大学名誉教授)
PART4 その事業者は一体誰?〝ソーラーバブル〟に沸く日本
平野秀樹(姫路大学特任教授)
PART5 「バスに乗り遅れるな」は禁物 再び石油危機が起こる日
大場紀章(ポスト石油戦略研究所代表)
PART6 再エネ増でも原発は必要 米国から日本へ4つの提言
フィリス・ヨシダ(大西洋協議会国際エネルギーセンター上席特別研究員)
PART7 進まぬ原発再稼働 このままでは原子力の〝火〟が消える
編集部

  
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脱炭素って安易に語るな

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。

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