社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2021年8月3日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

東北学院大学経済学部准教授

東北学院大学経済学部准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師等を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。
 

2019年4月から、有給休暇の年5日取得が義務化された。社員の有給取得を促したい困ったさんへのアドバイスとは……。
イラストレーション
石野点子 Tenko Ishino
 
 
 

 わが社では、定期的な年次有給休暇(以下、有給)取得を促す目的で「月イチ有給」を推進する活動を始めました。月1回は有給を取得してもらうように社員に呼び掛けているのですが、なかなか広まらないんです。よい方法はないでしょうか。

 

 有給申請の手続きを見直してみましょう。フル出社を前提に、有給取得する場合に社員が申請する、という手続きになっていないでしょうか?

 有給の取得率を上げるためには、月イチ有給を取得することを前提にして、取得できない場合に申請するという逆の手続きにすることが有効です。

 
 
 

 ただ申請方法を変えるだけで効果が出るんでしょうか。

 

 デフォルト(初期設定)の違いで、有給取得の利用しやすさは大きく変わります。ちょっとしたことに思えても、申請手続きはかなり面倒くさいものだからです。行動経済学では、これを「デフォルト・バイアス」と呼びます。

 
 
 

 なるほど。少しの手間を省くことで、有給を取得することへの心理的ハードルを下げることにつながるんですね。

 

 実は中部管区・関東管区の警察局がデフォルトの考え方をうまく取り入れて、宿直明けの休暇取得の促進に成功しています。以前は「休暇を取得するとき」に宿直明けの報告書の中で申請する必要がありました。そのやり方だと、実際に取得する人が少なかったそうです。

 その後「休暇を取得しないとき」に申請するという手続きに変更したことで、宿直明けの休暇取得者の人数や年間の休暇取得日数が大きく上昇したと報告されています。

 
 

 さっそく「月イチ有給」の申請方法と様式を工夫してみます!

 

 この機会に、その他の社内制度のデフォルトがどうなっているか見直してみてもよいかもしれませんね。

また、この工夫はコロナ禍で在宅勤務を定着させたい企業に対しても有効です。在宅勤務をデフォルトにし、出社する場合に申請をする形式とすることで、在宅勤務に対するハードルはぐっと下がることにつながるでしょう。

 ひとくちメモ   臓器提供の意思表示 
 わたしたちの選択がデフォルトに左右されることは、臓器提供の意思表示の例においても指摘されてきた。
 日本のように、「提供したい」場合に記入して意思を表明する必要がある国では、同意者の割合は1~2割になっている。一方で、フランスやハンガリーなど「提供したくない」場合に記入して表明する設定にしている国もあり、それらの国の同意者割合は9割を超えているのだ。 

Wedge7月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■資源ウォーズの真実  砂、土、水を飲み込む世界
            
part I-1 〝サンドウォーズ〟勃発! 「砂」の枯渇が招く世界の危機 
   2       ハイテク機器からシェールまで 現代文明支える「砂」の正体          
     3       砂浜、コンクリート…… 日本の知られざる「砂」事情とは?   
            
part II-1 レアアースショックから10年 調達多様化進める日米
   2      中国のレアアース戦略と「デジタル・リヴァイアサン」         
     3    〝スーパーサイクル〟再来 危機に必要な真実を見極める眼力
            
part III-1  「枯渇」叫ばれる水 資源の特性踏まえた戦略を   
   2           重み増す「水リスク」 日本も国際ルール作りに関与を    
     3         メコン河での〝水争奪〟 日本流開発でガバナンス強化を

  
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◆Wedge2021年7月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 

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