WEDGE REPORT

2020年7月23日

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 「(厚生労働省が配信した)このアプリはコンセプトから破綻している。双方のスマートフォンにアプリを入れなければならず、感染者や接触者を追いきれない」
 こう語気を強めるのは、行動経済学の第1人者である京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授だ。そのアプリとは、新型コロナウイルス対策の〝切り札〟の1つとされ、濃厚接触の可能性を通知する「COCOA」(以下、ココア)のことである。

厚生労働省は、アプリの普及により、感染拡大防止につながることを期待するが……  (NAOKI MORITA/AFLO)

 6月19日以降配信されたココアは、米グーグルと米アップルによる技術仕様をベースにした。アプリをインストールしたスマホを持った人同士が15分以上、1メートル以内の距離にいたことを確認すると、双方のスマホに接触情報が記録される。その後、PCR検査で新型コロナ陽性となった利用者が、保健所から受けた「処理番号」をココアに入力することで、過去14日間に陽性者との接触情報が記録された全ての端末に通知がいく仕組みだ。連絡先、位置情報など、個人が特定される情報は一切利用されず、個人情報に配慮した形となっている。

 日本公衆衛生学会感染症対策委員会の前田秀雄委員長は「ココアによって、これまで把握できなかった濃厚接触者の早期発見につながれば」と語る。保健所が実施している行動履歴の聞き取りでは感染者の記憶に頼るしかなく、特に都市部で不特定多数と接触した場合、感染経路の特定および濃厚接触者の把握には限界があるという。

 しかし、ココアが感染拡大防止に効果を発揮するためには、2つの大きな壁がある。

 1つ目の壁は、「アプリの普及」だ。英オックスフォード大学が公表したシミュレーションによれば「人口の6割近くにアプリが普及し、濃厚接触者を早期の隔離につなげることができれば、ロックダウンを避けることが可能になる」とある。日本において普及率6割を達成しているアプリは8400万人(人口の約67%)のユーザを持つ「LINE」くらいである。一方、ココアのダウンロード数は7月8日現在、約610万件(約5%)だ。

 これについて、東北学院大学経済学部の佐々木周作准教授は「現在ココアに登録している層は、感染拡大防止のために『登録してほしい層』と一致しない可能性が高い」と指摘する。佐々木准教授曰く、健康アプリに登録する人は既に健康への意識が高い場合が多いように、配信後すぐにココアに登録する層は、コロナ対策に関心があり、普段から感染リスクの低い生活を送っている可能性が高いという。一方、本来ココアに登録してほしい層とは、夜の街の従業員や客、医療従事者、コンサートなどのイベント参加者など、感染リスクの高い生活を送る人たちだ。

 今後のアプリ普及に向けた取り組みについて、厚労省新型コロナウイルス対策本部のアプリ担当者は「民間の経済団体や企業、NPOなど、幅広い団体に対しココアの利用を呼びかけていきたい」と述べるが具体策は見えない。

 アプリが普及したとしても、2つ目の壁が立ちはだかる。それは「陽性判定を受けたココア利用者が本当に通知入力をしてくれるのか」という問題だ。

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