冒頭で述べたように、濃厚接触者へ通知するためには、陽性者自らがココアに処理番号を入力する必要がある。
川崎市医務監・川崎市立看護短期大学学長の坂元昇医師は「全ての感染者のうち、どれくらいの割合が入力したかによって、ココアの価値が決まるといっても過言ではない」と指摘する。
ただ、濃厚接触者への一斉通知によって、陽性者本人が特定されるリスクを完全に排除することはできない。個人が特定される情報がなくとも、過去14日間でほとんど人と会わなかった陽性者やコミュニティが限られる陽性者ほど、通知者から特定される可能性は高まる。入力することのメリットもなく、公衆衛生を目的とした、陽性者の〝善意〟に頼るしかないのだ。
迫り来る感染拡大の第2波
位置情報の活用を含めた議論を
外出自粛要請、行動変容、新しい生活様式……。ココアをはじめとし、日本の新型コロナ対策は、国民の〝善意〟に寄りかかっている。これまでの方針を変えずに、感染拡大の第2波、第3波を乗り切れるのか。医療体制の拡充や休業補償などにより既に国や自治体の財政は逼迫し、国民や企業も緊急事態宣言下のような長期にわたる自粛要請を簡単には許容できないだろう。
依田教授はデータ活用による新型コロナ対策のさらなる一手について「個人と紐(ひも)付かない形で、感染者の位置情報を活用することで、正確な感染経路追跡が可能となる」と述べる。たとえば、本人同意が得られた感染者の位置情報を携帯キャリアから提供を受け、過去14日間の移動履歴を地図上にプロットすれば、感染者同士が接触した位置と時間が割り出せるという。
慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授は「位置情報の活用のように、今後の感染拡大に向けてデータ活用の段階を引き上げるためには、新たな法律が必要だ。利用の目的や範囲を限定し、平時に持ち込まないなどの条件を明記する。第2波まで時間的猶予がある今だからこそ、今後のリスクに備え、議論を進めるべき。日本の立法力が問われている」と指摘する。
官民データ活用を推進する内閣官房IT総合戦略室の担当者は、感染追跡のための位置情報活用に関して「たとえ本人の同意を得られたとしても、現時点では国民全体のコンセンサスがとれていない」と述べる。
だが、感染拡大のリスクと正面から向き合い、採るべき方針を示して民意を啓蒙していくことこそ、本来、国が果たすべき役割ではないだろうか。ココアが「仏作って魂入れず」のまま終わらぬことを願うばかりである。
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■大学はこんなにいらない
Part 1 日本の研究力向上に必要な大学の「規模」の見直し
Part 2 経営難私大の公立化にみる〝延命策〟の懸念
Part 3 進むのか 国立大学の再編統合
Part 4 動き出した県を越えた再編 まだ見えぬ「効率化」へのビジョン
Part 5 苦しむ私大 3割が定員割れ 延命から撤退への転換を
Column 地方創生狙った「定員厳格化」 皮肉にも中小私大の〝慈雨〟に
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