今春の新入社員教育は多くの企業が集合研修を取りやめ、オンラインで実施した。そんななか、研修における「現場実習」の形を変えたのが住友林業だ。同社では昨秋の段階で、新入社員研修にVR(仮想現実)機器を導入することを決定。今春は自宅にいる新入社員にオンライン講義をしながら、VR動画を活用し、住宅事業に必要な知識を「体感」させた。
VRを用いて、仮設工事の基本知識やスケール感を習得させたり、住居を建築する敷地の特徴や、現場の周辺環境などの手法を学ばせたりする。
以前は実際の建築現場をバスで移動して回ったため、時間がかかるだけでなく、スペースの関係で全員がくまなく見るのが難しいこともあった。さまざまな建築段階の住居を見せるため、複数の現場を選定し所有者と調整するなど、事務方の負担も大きかった。VRの導入で半日分の時間を短縮した。
同社では、VRで見る建築場面の続きの工程を学べる動画教材も用意した。「現場実習の短縮で生まれた時間にその動画で学ばせることで、建築の流れを『点』ではなく『線』で理解させられ、教えられる項目も従来の約3倍に増やせた」(人財開発部マネージャーの銭村健人氏)という。
同時に、現地に実際に行く意味も際立つという。銭村氏は「VRだけで全ては学べない。ツールを充実させて事前に社員の視野を広げておくことで、実際の現場で吸収できることが増える」とリアルでの効果を期待する。
研修を受講した新入社員の岡しずりさんは、「VR機器を使用すると初めに聞いたときは、何ができるのか想像がつかなかった。だが実際に使ってみて、360度、現場の様子を体感することができた」という。また岡さんはウェブで受講した研修内容を、動画コンテンツと合わせて確認することで理解を深めたという。
同じく新入社員の佐藤寛隆さんは、「同期とウェブを用いたコミュニケーションに慣れた。研修後はそれぞれ支店に配属されたので物理的に会うことが難しいからこそ、今後もウェブで頻繁に連絡が取れれば」と語る。
VRを利用した研修は新入社員に限らず、研修内容をアレンジしてグループ会社にも行っている。また社内のさまざまな部署から社員がVR活用の様子を見学しに来たという。今後対象の職層を段階的に広げ、社員の自己啓発のツールとなるコンテンツ作成を行う予定だ。効果的な研修が全社に波及していく。
エン・ジャパンのシニアコンサルタント、横田昌稔氏は、オンライン研修による業務への波及性について「集合研修のために特定の社員が一定期間、職場から離れるこれまでの形を変えることができる。たとえば研修で管理職がゴソっといなくなるのは、事業活動に影響がでてしまう。オンラインであれば、拘束時間を短縮できたり、スキマ時間などをうまく使えたりする」という。