三井住友海上では、従来1ヵ月半にわたり泊まり込みで実施していた研修を、今年は2週間程度のウェブ研修へと切り替えた。短縮は新型コロナの影響前から議論していた。「知識を詰め込むのではなく、自分自身で学び方を覚えてもらうことに主眼を置くべきだ」(人事部能力開発チーム金井美帆氏)。そこで研修ではどういったところを調べれば知識を得ることができるか、エッセンスを凝縮。研修後に各支店に配属されたのち、自律して動ける人材を育てたいという。
配属後フォローもオンライン
変わるコミュニケーションに対応を
配属後の新入社員へのフォローの方法も新型コロナで変化した。三井物産では、部署に配属された新入社員へのOJTを、オンラインでも実施する。
同社では15年まで、研修内で多くの行事を組み込んでいた。三井家が眠る菩提寺・京都真如堂を訪ねたり、北海道にある同社保有の山林に、新入社員全員で植樹をしたりしていた。しかし5年前、「研修は必要最低限の知識・マインドセットを学ぶ場。現場でしっかりと経験を積むことが重要」と、新入社員研修は2週間に短縮し効率化した。それもあって、今回さまざまなコンテンツをオンライン化しやすかったという。
同社では、先輩社員が1年間にわたりマンツーマン指導する「マンツーマンリーダー(MMリーダー)制度」が定着している。MMリーダーは育成に適した人材として選ばれた社員で、教育方針を人事担当者とも共有する。以前、MMリーダーの意見として、新入社員のビジネス文書力が徐々に落ちてきているとの指摘があった。そこで2年前から新入社員研修にビジネス文書力を鍛える「ロジカルライティング」を導入。今回もウェブを通じ実施した。
今年の新入社員はオンラインでの全体研修後、各部署に配属されたが、しばらくは在宅勤務が続いた。MMリーダーは、これまでのように隣の席にいる新入社員に細かい点まで手取り足取り指導できない。そこで各リーダーは1日30分以上、オンラインでのフォローを開始。業務開始時と終了時の振り返りに時間を設けたり、気楽に意思疎通できるよう「なんでも質問時間」を設けたりと、それぞれが試行錯誤した。
同社では今春、新社屋が完成し、フリーアドレスを導入して働く場所や座席を毎日自分で決めるようになった。「上司・部下が毎日同じ場所で顔を揃える環境からの転換が進み、新入社員とのコミュニケーションも一部オンラインを用いることは避けられない。今回得たノウハウを今後に生かしたい」と同社人事総務部マネージャーの常陸悠介氏は語る。
多くの企業研修で講師を務める研修コンサルタントの佐藤政樹氏は「研修効果を高める目的のため、オンラインは手段としてうまく活用することが重要だ」と指摘する。講義コンテンツの充実だけではなく、疎かになりがちな研修後のフォローアップを、オンラインならば終了後も定期的に実施しやすい。工夫次第で対面型以上の効果を生むという。
またウェブ講義では対面よりも工夫が必要だという。「特に若い世代はオンラインのコンテンツに慣れている。普段より話す速度を早めたり、適宜リアクションを要求するなど織り交ぜていくことが効果的」(佐藤氏)。講義中、チャットなどの機能を用いて気軽に質問することができるが、講師がそれをすべて受け入れるのは難しい。
そこで質問に答える担当を設け、講師は連携しながら全体を回していくファシリテーターとしての能力もより求められる。しかし、あくまでウェブはツールであり、研修効果をいかに高めるかが本質。ウェブでは効率的に実施できるからこそ、研修後の定期的な振り返りやフォローも抜かりなく実施することが求められると佐藤氏は強調する。
それは同時にリアルの研修効果を高めることに繋がる。オンラインで知識を効率的に学びつつ、対面で直接周囲と話したり実践したりすることで習得を実感でき、社員間の絆も醸成される。その仕掛けをどう設けていくかが、今後の社員教育に求められる。
■逆境に克つ人事戦略 コロナ禍を転じて福となす
Part 1 コロナ禍は変革のラストチャンス デジタル時代に欠かせぬ人事戦略
Part 2 コロナ前に戻る企業は要注意 生産性を高める働き方の追求を
Column 「脱ハンコ」を妨げるクラウド未対応の電子署名法
PART 2 / CASE 1 シリコンバレーで進む「オフィスの分散化」 イノベーションを生むための〝次の一手〟
PART 2 / CASE 2 中国IT企業が手放せない集積と長時間労働で得る生産性
Part 3 採用・研修で起きた新潮流 オンライン化が問う「リアル」の意味
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。