オンラインでの関係醸成に試行錯誤
伝統的研修を思い切って見直し
住友林業では、このVRを用いた研修に先んじて、まずはオンラインでのチームビルディング、個別面談等を実施した。 新入社員に直接会えない分のフォローとして、全員を対象に30分以上の面談を設け、ウェブ上のやり取りではなかなか話しにくいことなどをケアしていくことを重視したという。オンライン研修において、同期間の関係を醸成するのは試行錯誤だった。
グループワークの中でロールプレイングを実施した際、新入社員同士でフィードバックをさせたところ、指摘が甘くなりがちな面もあったという。「表面的な同意や、楽しいことのシェアはスムーズに行えるが、機微の部分がつかめないため相互に厳しいことを指摘する点が難しいようだ。オンラインならではの課題と感じる」と人事部スミリンビジネスカレッジの小林果鈴氏は語る。リアルな部分での関係構築が、ウェブ講義などの研修効果を高めることになるだろう。
歴代受け継がれてきた伝統的な研修は、カリキュラムの大幅な見直しがなされることなく続いているケースが多い。オンライン化を機に、研修目的とその内容が合致しているかを再考する機会となったのが、TDKだ。
同社では1カ月間にわたる研修を、新入社員に自宅で受講させた。新入社員研修のメインコンテンツは、モノづくりを体感しながら学ぶ「モノづくり講座」。通常であれば、同講座は3人1組のグループで約3週間かけてタイマーを製作するが、今年は中止となった。
そこで、同講座の中で学ぶ原価計算や品質保証などの項目を、それぞれオンラインの講義スタイルに整理し直した。各講義では現場における実例を盛り込んで解説しつつ、講師が出す課題に対する考えを、新入社員にチャットで回答させる形で進めた。
国内人財開発統括部の田内俊輝氏は「教える項目がクリアになった。講義も一方的に展開するのではなく、チャット画面で受講者自身の考えを示させながら、同期のさまざまな意見にも触れさせた。従来のモノづくり講座では、体験の中で学んでほしいことをあれこれと詰め込み、かえってメッセージがぶれていたことに気づけた」という。
同部の佐伯麻美氏は「実際に手を動かすことでしか得られないことはあるので、モノづくり講座の真の目的を再認識する機会にもなった。今後、オンライン研修のメリットも踏まえ、研修の目的はそもそも何か、それにふさわしい教育手段はどのようなものかという研修の本質的な意味を再考し、新入社員研修全体をデザインしていきたい」という。
豊田自動織機の新入社員研修では、例年、地域の幼稚園、保育園における清掃など社会奉仕活動や10名単位のグループで13キロの山道を歩行する合宿を実施しているが、今年はいずれも中止となった。またこれまで、知識・ノウハウのインプットを目的とした研修プログラムは、大教室に新入社員全員を集めたスタイルで講義をしていたが、密回避のため、今年度は教室を分散し、オンライン形式で実施した。
講師の目の届かないオンライン講義では集中力が持続しにくい面もあるが、各教室で規律面を引っ張るリーダーを選出し、互いに声掛けをし合うなど、自ら学ぶ雰囲気を醸成することで、全体として活気溢れる講義となったという。同時に、合宿がもたらす、長い時間を共に過ごす経験の重要性を認識した。「これまでは合宿が同期入社間の親睦を深める機会としてどの程度の意味があるのか言い切るのが難しかった。今回実施しなかったことで、このプログラムは必要だと実感できた」と人事部研修グループ長の二木耕平氏は振り返る。