2024年12月22日(日)

サムライ弁護士の一刀両断

2020年5月29日

 新型コロナウィルス感染防止による在宅ワークの浸透に伴い、これまでとは異なる働き方が広まったことには思わぬ影響もありました。その中の一つに「脱ハンコ」の動きがあります。

 従来の企業では、契約の締結をはじめとして、請求書や納品書などの伝票類の発行や、社内の稟議と決裁に至るまで、紙の書類にハンコを押す場面が頻繁にあります。

 これに対して在宅で仕事をする場合には、書類のやり取りは基本的にデータで行うことになりますので、物理的にハンコを押す作業が邪魔になってきます。

 企業に勤めている方の中からは、「画像ファイルとして送られてきた伝票をプリントアウトしてハンコを押し、それを画像ファイルにして相手に返送する」という作業を求められたという話も聞こえてきます。

 我々弁護士も、裁判所という役所を相手にする関係でハンコ文化にどっぷり浸かっているところがあり、そのような話に笑ってもいられないのが実際のところです。

 在宅ワークを促進する中でハンコのためだけに出社するのも馬鹿らしい話ですが、なぜ、ハンコを押すことが重要とされてきたのでしょうか。また「脱ハンコ」は可能なのでしょうか。

(takasuu/gettyimages)

ハンコがなくても契約は成立する

 ハンコを押す場面として多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、やはり契約書を取り交わす場面ではないでしょうか。

 日常生活でもアパートを借りる場合などには契約書にハンコを押しますし、企業間の取引でも契約書に会社の代表印や役職者のハンコが押されます。

 契約書といえばハンコというイメージがありますので、もしかすると「ハンコを押すことで初めて契約が成立する」と考えている方も多いかもしれません。

 しかし日本の法律ではほとんどの場合、ハンコがなくても契約は成立します。

 この点については、民法には次の条文が置かれています。

 「契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない」(民法522条2項)

 誰かの保証人になる場合など、書面にする必要がある契約も一部にありますが、ほとんどの契約では、書面を作ることは「契約が有効かどうか」という面では必須ではありません。

 ハンコがいらないどころか、口約束だけでも契約が成立するのが日本の法律なのです。


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