2024年12月22日(日)

サムライ弁護士の一刀両断

2020年4月17日

(Ivo Gonzalez/gettyimages)

 新型コロナウィルスが猛威を振るう中、我が国でも新型インフルエンザ等対策特別措置法(インフルエンザ特措法)に基づく緊急事態宣言が発出されました。

 これに伴い、既に多くの企業で従業員の在宅ワークが実施されています。自宅での慣れない作業に戸惑う人も多いのではないでしょうか。

 その一方で、会社勤めであっても今まで通りの通勤をしている人も少なくないようです。私の知り合いの中にも、大企業の総務部に勤務しながら、緊急事態宣言後も今まで通り通勤し、社内で顔を合わせた会議も開催されているという人もいます。在宅ワークの実施については、会社によってもずいぶん温度差があるように思えます。

 現在の状況下で、企業が従業員に対して今まで通りの出勤を求めた場合、どのような問題があるのでしょうか。

在宅ワークへの切り替えは「強制」ではない

 緊急事態宣言が発出されたあと、企業が従業員をこれまでどおりに出勤させることは、インフルエンザ特措法や緊急事態措置に違反しないのでしょうか。

 緊急事態宣言により、宣言の対象とされた地域では緊急事態措置が講じられます。具体的には都道府県知事により、住民に対して外出の自粛や感染防止のための協力要請がなされたり、遊興場その他の法律に定める一定の施設等の使用制限、催物の開催制限などの要請がなされます。

 このうち施設等の使用制限や催物の開催制限については、正当な理由なく要請に従わない場合にさらに一段階強い「指示」が出されることが予定されています。

 緊急事態宣言下の対象地域では、住民に外出自粛等が要請されていることから、企業としても、従業員に対して在宅でできる業務については在宅で行うよう指示することが望ましいと言えそうです。また、経済産業省が緊急事態宣言を受けるかたちで、日本商工会議所などの関連団体に対し、在宅勤務の推進として、「社会機能を維持するために必要な職種を除き、①オフィスでの仕事は、原則として、自宅で行えるようにすること、②やむを得ず出勤が必要な場合も、出勤者を最低7割は減らすこと」を要請しました。

 もっとも、緊急事態宣言による「要請」には強制力がないとされています。

 緊急事態宣言の対象地域の企業が、従業員に今までどおりの出社を求めたとしても、そのこと自体は、インフルエンザ特措法や緊急事態措置に違反するということにはならないと考えられます。

従業員に対する安全配慮義務が課題

 それでは、緊急事態宣言の対象地域の企業が従業員に出社を求め、これまで通りの業務を行わせたとしても全く問題はないのでしょうか。そんなことはないでしょう。

 企業のように労働者(従業員)を雇う側には、労働契約法により、「労働者の生命、身体等の安全を確保しつつ働くことができるよう、必要な配慮」をする義務(安全配慮義務)が課せられています。

 これに対して、新型コロナウィルスは感染力が強く、通勤途上で電車に乗ったり、誰かとエレベータで乗り合わせたりすることでも感染リスクがあると考えられます。新型コロナウィルスが蔓延している状況下では、出社を求め続けること自体に、従業員の生命・身体等の安全に懸念がある状況だといえるでしょう。

 また、緊急事態宣言が出され、経済産業省による在宅推進の要請がなされている中では、なるべく出社を避けるべきというのが、社会の共通認識となりつつあります。安全配慮義務違反にあたるかどうかといった法律の解釈では、このような社会の共通認識(社会通念)も考慮されますので、現在の状況は、新型コロナウィルスの感染対策を取らないことに安全配慮義務違反が認められやすい状況だといえるでしょう。

出社の必要性とのバランス

 他方で、企業としてはこのような状況でも事業を存続させなければなりません。

 また、従業員の業務の中には、どうしても出社が必要なものもあります。現時点では、出社が避けられない業務に就いている従業員に対し、対面業務を極力避けるなどの配慮をしたうえで出社を求める場合にまで、安全配慮義務違反が問われる可能性は高くないのではないかと推測されます。

 しかし、出社しなくても業務が可能な従業員に対してこれまで通りの出社を漫然と求めたり、出社が避けられない従業員であっても必要性の高くない長時間の対面会議への同席を求めるなどした結果、従業員が新型コロナウィルスに感染した場合、企業側に安全配慮義務違反による損害賠償責任が課される可能性はそれなりにあるように思われます。

 さらに、このような状況ですから、出社を求められる従業員のメンタル面のケアも必要です。新型コロナウィルスに感染しなくとも、無配慮な出社命令により従業員がメンタル面で失調した場合、やはり安全配慮義務が問われる可能性があります。


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