当コラムでも以前に取り上げた通り、漫画などの海賊版サイトが大きな問題となっています(「暴かれた『漫画村』、ブロッキングは本当に必要か?」)。
そんな中、文化庁に設置された文化審議会著作権分科会は、2019年2月13日に取りまとめた報告書の中で、海賊版サイトなどの問題に関連して、著作権法を改正し、ダウンロードを違法とする対象範囲を現在の音楽・映像から著作物全般に拡大することを提言しました。
報道などによると、現在、著作権法の改正法案を今国会に提出すべく調整中であり、既に自民党の知的財産戦略調査会において、文化庁がまとめた著作権法改正案が了承されたということです。
これに対しては2月19日、大学教授や弁護士などの90名を超える専門家が連名により、ダウンロード違法化の対象範囲の拡大に慎重な議論を求める緊急声明を発表しました。
また、2月27日には、日本漫画家協会が、海賊版サイトの対策そのものには賛成するが、ダウンロード違法化の拡大については要件をさらに絞り込むよう求める声明を発表しています。
このように、ダウンロード違法化の拡大に対しては、海賊版サイトの最大の被害者であるはずの漫画家の中からも、慎重な議論を求める意見がある状況です。
ダウンロード違法化の対象範囲を拡大することにはどのような課題があるのでしょうか。
ダウンロード違法化の拡大とは
まず、今回、著作権法の改正が検討されている「ダウンロード違法化の対象範囲の拡大」とはどういうことかを解説します。
(1) 著作権侵害にあたる「複製」行為
まず、ある著作物(漫画、イラスト、写真などの静止画像、小説や記事などのテキスト、音楽や動画など、創作物全般が含まれます)の権利者(著作権者)には、「著作物を無断で複製されない」という権利(複製権)があります。
例えば、コピーを取ることは複製にあたります。音楽や動画をダウンロードしたり、イラストや写真をパソコンやスマートフォンに保存することも「複製」にあたるでしょう。これらの行為を行うには、基本的に権利者の承諾が必要です。
もっとも、どのような場合でも例外なく権利者に承諾を取らなければならないとするのは現実的ではありません。また、著作物の使用が極端に制限されることは、学問や文化の発展にとっても有害です。
そのような考え方から、著作権法は権利者の承諾なく複製しても著作権侵害にならない場合を定めています。
例えば、研究などのために図書館内の資料をコピーする場合や、著作物を一定のルールに従って引用する場合などは、権利者の承諾は不要です。
(2) 私的使用のための複製は一定の範囲で可能
そのように著作物を承諾なく複製できる場合の一つに、私的使用の場合があります。
個人や家庭内などの限られた範囲内でのみ使用するために著作物を複製する場合、権利侵害の程度が少ないと考えられることから、一定のルールのもとで権利者の承諾を得ることなく複製することが許されています。
具体的には、次の全ての要件を満たす場合は、私的使用のための複製にあたり、著作権者の許可なく複製することが可能です。
- 個人や家庭内などの限られた範囲内での使用を目的とすること
- 使用する本人が複製すること
- 次の場合にあたらないこと
- a.公共の場に設置されたコピー機などを使用して複製する場合
- b.コピープロテクトなどが施されていたものについて、プロテクトが解除されたことを知りながら複製する場合
- c.著作権を侵害して違法に配信等された録音又は録画を、違法と知りながら複製する場合
- d.映画を盗撮する場合
(3) 私的使用のための複製であっても違法となる場合
私的使用のための複製であっても、a.からd.にあたる場合は、著作権者の承諾を得る必要があります。
そのため、音楽や動画(「録音・録画」)は、たとえ私的に使用する場合であっても、著作権侵害があることを知りながら権利者に無断でダウンロードした場合には違法となります。また、このようなダウンロード行為に対しては刑事罰も設けられています。
他方で、現時点では、漫画、イラスト、写真などの静止画像や、小説や記事などの文章など、「録音・録画」以外の著作物についてはこの規定の適用はありません。
そのため、海賊版サイトの漫画を個人のパソコンやスマートフォンなどに保存したとしても、私的な使用と認められるのであれば、著作権法の違反にはあたらないというのが現時点の法制度です。
(4) ダウンロード違法化の範囲の拡大)
さて、先日の著作権分科会では、インターネット上の著作権侵害による被害の深刻さが増しているとして、これまで音楽や動画のみが対象であった著作権侵害物の違法ダウンロードについて、次のような提言がなされました。
それを受け、自民党の知的財産戦略調査会合同会議において、文化庁がまとめた著作権法改正案が既に了承され、法改正に向けた具体的な動きが始まっているということです。
- (i) 著作権侵害物のダウンロードが違法となる範囲を著作物全般に拡大する
- (ii) 違法となる行為を複製全般に拡大する
- (iii) 対象範囲の拡大後も刑事罰を課す
仮に、今回の提言を受けた法改正で(i)が実現した場合には、海賊版サイトの漫画などを個人の端末に保存した場合にも著作権法違反が問われる可能性があります。
また、(ii)の対象行為の拡大に関しては、一般的には「ダウンロード」と意識されていないような行為も規制の対象となる可能性があります。
後で述べますが、スクリーンショットを撮影したり、テキストをコピー&ペーストして保存するような行為も規制対象となる可能性があります。
このような対象範囲の拡大に対し、専門家や漫画家協会などが声明を出し、慎重な議論を呼びかけているというのがこれまでの流れです。