日産自動車の現職の代表取締役会長であったカルロス・ゴーン氏が、2018年11月19日、有価証券報告書の虚偽記載を理由とする金融商品取引法違反で突然逮捕されたニュースは国内外に衝撃をもって迎えられました。
ゴーン氏が仏ルノーの最高経営責任者を兼任していたこともあり、本事件は海外メディアからも高い関心が寄せられています。
そんな中、東京地方裁判所は12月20日、ゴーン氏の金融商品取引法違反による勾留の延長を却下しました。その時点では、世間では近日中にゴーン氏に対する保釈が認められ、釈放されるのではないかという見方がありました。
ところが一転、東京地検はゴーン氏を特別背任罪で逮捕し、その後東京地裁が同罪での勾留を決定したため、ゴーン氏に対する身柄拘束は再び長期化する見通しです。
海外メディアの中には、ゴーン氏の身柄拘束に関連して、日本の刑事手続について批判的な報道も散見されます。今回はゴーン事件を題材に、日本の刑事手続について解説したいと思います。
期間制限のある逮捕・勾留手続
ある刑事事件について、犯罪に及んだ疑いがある者(「被疑者」)が特定された場合、その身柄が拘束されて、警察署や拘置所に留置されることがあります。
実は、被疑者に対する身柄拘束には、刑事手続の段階に応じて、「逮捕」「(起訴前)勾留」「(起訴後)勾留」とそれぞれ異なる手続がとられています。
【一時的な措置である逮捕】
まず刑事事件の被疑者が特定された場合、捜査機関は裁判所の逮捕令状により被疑者を「逮捕」することができます。
逮捕は被疑者の逃亡を取りあえず阻止するための一時的な措置ですので、最大で72時間(今回のように検察官が逮捕した場合は48時間)しか身柄を拘束できません。
捜査の関係でそれ以上の身柄拘束が必要な場合には、より長期間の身柄拘束手続である「勾留」の手続を取ることが必要です。
【厳しい期間制限がある起訴前の勾留】
勾留は検察官が請求し、裁判所が決定する手続です。裁判所が検察官から勾留の請求を受けた場合、裁判官は被疑者の弁解を聞いた上で、逃亡や証拠隠滅のおそれなど、法律が定める要件や必要性があるかどうかを判断します。裁判官が勾留の要件が満たされており、必要性があると判断した場合には勾留が認められます。
勾留が認められた場合、捜査機関は請求から原則10日間、被疑者の身柄を拘束することができます。
事件が複雑で捜査に時間を要するなどのやむを得ない理由がある場合には、勾留が延長されることがあり、その場合には、捜査機関はさらに最大10日間、被疑者の身柄を拘束することができます。一定の特殊な犯罪を除き、勾留の延長は1回しか認められません。
検察官は、原則10日間、延長を含めると最大20日間の勾留期間内に、被疑者を起訴するかどうかを決めなければなりません。検察官が勾留期間内に被疑者を起訴しなかった、あるいはできなかった場合にはその被疑者は釈放され、同じ行為を理由としては逮捕・勾留ができません。
【延長に制限がない起訴後の勾留】
検察官が被疑者を勾留中に起訴した場合、被告人(被疑者は起訴後は被告人と呼ばれます)は、半ば自動的にそのまま勾留されます。
この場合の勾留期間は2カ月とされており、それが経過した場合には1カ月単位で延長が必要です。ただし、起訴後の勾留は起訴前と違って延長に回数制限がありませんので、勾留に理由があると認められる限り延長を繰り返すことも可能です。
実際には保釈の手続が取られない限り、裁判が終了するまで勾留による身柄拘束が継続することが大半です。
【起訴後の勾留は保釈が可能】
保釈は「裁判が終わる前に逃亡しない」という約束のため、被告人に保証金(いわゆる保釈金)を裁判所に預けさせたうえで、裁判が終わるまでの間、釈放するという手続です。
保釈は、死刑や長期の懲役刑の可能性があるなど保釈金を預けても逃亡の可能性が否定できないような場合や、被告人が証拠隠滅を図ったり、被害者などに危害を加えるおそれがある場合などを除き、被告人の権利として認められなければならないとされています。
保釈は、起訴前の勾留には認められていません。起訴された後になって初めて取ることのできる手続です。