2024年4月17日(水)

サムライ弁護士の一刀両断

2018年12月29日

ゴーン氏の逮捕・勾留で起きたこと

 以上が日本の刑事事件の身柄拘束手続の解説ですが、それでは、ゴーン氏は現在どういった理由で勾留されているのでしょうか。また、それはいつまで続く見通しなのでしょうか。

 11月19日にゴーン氏が逮捕されたのは、平成22年から平成26年までの間、受取っていた役員報酬を有価証券報告書に正しく記載しなかったことが金融商品取引法違反にあたるという、有価証券報告書の虚偽記載の疑い(第1の虚偽記載)によるものです。

 上場企業は事業年度ごとに、企業の経営状況や財務状態を記載した「有価証券報告書」を金融庁に提出しなければなりません。

 有価証券報告書は、投資家などがその会社に投資するかどうかの判断材料になるものです。企業が経営状態を実態よりもよく見せようなどとして有価証券報告書に事実に反する事柄を記載した場合(虚偽記載)には罰則が設けられています。

 その後、ゴーン氏は第1の虚偽記載による勾留期限が経過する前の12月10日に、第1の虚偽記載で起訴されました。同時に、ゴーン氏は、第1の虚偽記載とは時期が異なる直近3年分の役員報酬に関する虚偽記載(第2の虚偽記載)で逮捕されています。

 この時点で、ゴーン氏に対しては次の2つの勾留手続が同時に取られている状態でした。

(1) 第1の虚偽記載による起訴後の勾留

(2) 第2の虚偽記載による起訴前の勾留

 東京地裁は12月20日、第(2)の勾留について、10日間の勾留期間が経過した後の延長を認めませんでした。そのため、ゴーン氏に対する第(2)の勾留は時間切れにより終了し、第(1)の起訴後の勾留だけが残った状態になりました。この段階では、第(1)の起訴後の勾留について保釈が認められれば、釈放されるという状態だったということになります。

 第1の虚偽記載と第2の虚偽記載は、有価証券報告書の作成時期が違うものの、役員報酬額を偽ったという点で関連する事件です。その時点では、「裁判所が、現に捜査中の第2の虚偽記載についてなされた第(2)の勾留についてもはや必要がないと判断したからには、既に証拠が揃って起訴されているはずの第1の虚偽記載についてなされた第(1)の勾留に対しても保釈が認められるだろう」という見方が大勢でした。

 それが一転、検察官が、これまでの有価証券報告書の虚偽記載とは異なる「特別背任罪」によりゴーン氏を逮捕・勾留したため(第(3)の勾留)、たとえ第(1)の勾留について保釈が認められるような状況にあったとしても、ゴーン氏は特別背任による勾留により身柄拘束を受けるということになったわけです。


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