時代に合わなくなってきているハンコ
このようなハンコによる“二段階の推定”の仕組みは、50年以上前の最高裁判決によって確立されました。
それから半世紀が過ぎ、インターネットを介したやり取りが発達した現代では、ハンコによる実務は時代遅れになりつつあるのではないかと感じます。
実はハンコには「持ち主以外でも、持ち主が押したものとまったく同じ形に押すことができる」という脆弱性があります。
例えば、会社の代表印は本来、代表取締役の意思を表すためのものですが、実際は代表取締役ではなく秘書室や経理部門が保管し、担当者が会社からの指示で押している場合が大半でしょう。
ここでもし、担当者がよからぬ考えを持った場合、会社の指示によらずにハンコを押すことができてしまいます。経理担当者が預かったハンコを使って銀行などから無断で現金を引き出し、使い込んでしまうような事例は実際によく耳にします。
そもそも、取引のオンライン化が進む現代では、物理的な紙に物理的なハンコを押すという作業自体が非効率です。
インターネットを介したビジネスの中でハンコを活用するとなると、往々にして「データで送られてきた領収書をプリントアウトして、ハンコを押してスキャンしてメールで返送する」などといった中途半端なやり取りが起こりがちです。
この場合、「ハンコが押された領収書」の画像データは、そのままでは簡単に加工して改竄できてしまいます。こうなると、わざわざプリントアウトしてハンコを押す作業にどれほどの意味があるのか疑問です。
むしろ、「データとしての領収書」に証拠として高い価値を持たせるためには、データの改竄を困難にする仕組みを作り、ハンコへの依存から脱却するのが先決でしょう。