ハンコを押すのは証拠を作るため
それではどうして契約書にハンコを押すのでしょうか。
公的な書類などの場合は、法律でハンコを押すことが求められることもありますが、それ以外では、ハンコは「証拠を作るため」のものと言って良いでしょう。
契約の場面でいえば、口約束で契約したとしても、後になって「言った、言わない」のトラブルが出てきます。そのため、契約の内容を文書に残しておくことが必要になってきます。
しかし、たとえ文書に残したとしても、契約相手が本当にその内容を認めているかどうかが分からないとあまり意味がありません。
ここでハンコが押された契約書が強力な証拠になるのです。
契約のトラブルは最終的には裁判で解決することになりますが、裁判のルールでは、契約書などの書面に押されたハンコは、それだけで「ハンコの持ち主が自分の意思で押したもの」と推定されます。
もし、誰かが盗んで押したなど、持ち主の意思で押したわけではない場合、そのような主張をする側が「このハンコは盗まれたものだ。持ち主の意思で押されたものではない」ということを立証しなければなりません。
さらに、持ち主の意思でハンコが押されている場合、法律により、「ハンコを押した本人は、書面の内容を認めた上でハンコを押した」という推定がされます。
この場合も、内容に間違いがある場合には、間違っていると主張する側が他の証拠を持ってきて証明しなければなりません。
整理をすると、ハンコが押された書面は、①「書面に押されたハンコは、持ち主が自分の意思で押したもの」、②「自分の意思でハンコを押した者は、書面の内容を認めていた」という“二段階の推定”が働きますので、「ハンコがある書面」は裁判では強い証拠になるのです。
さらに言えば、ハンコが実印などの場合には、「ハンコの持ち主が誰か」という問題についても、印鑑証明書によって簡単に証明することができますので、より強力な証拠になります。
そのため、契約書のほか、請求書、領収書、納品書などといった伝票の類や、会社の意思決定のための稟議書など、「トラブルになった時に備えて証拠にしたい書面」にはハンコが押されることになるのです。