2024年12月22日(日)

Wedge REPORT

2020年3月3日

ダイナミックプライシング導入により利益の拡大を図る企業が増えてきたが課題も多い。行動経済学の第一人者であり、GAFAなどプラットフォーマーへの規制にも詳しい京都大学の依田高典教授に、ダイナミックプライシングの注意点とその展望について聞いた。

編集部(以下、─) ビッグデータが手軽に安く活用できるようになり、さまざまな商材でダイナミックプライシングの導入が始まっている。しかし、消費者の反感を招いたり、価格設定に悩んだりするなど、必ずしもうまくいっていない。その原因は何か?

依田高典(Takanori Ida) 京都大学大学院経済学研究科教授 いだ・たかのり:専門は行動経済学、応用経済学等。1989年3月京都大学経済学部卒業、95年3 月京都大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、97年1月京都大学博士号(経済学)。2007年より現職。デジタル市場競争会議WGの座長を務める。著書は『「ココロ」の経済学』(筑摩書房)等多数。

依田高典教授(以下、依田) ダイナミックプライシングは需要と供給の瞬時の均衡点を探り、価格を提示する取り組みだ。これまでも、青果店の閉店間際の安売りなど、需給に応じて価格を変動して販売する取り組みは行われてきたが、IoTの浸透で需給が刻一刻と把握できるようになり、その頻度があがった。

 しかし、当然だが、実際には需給共に様々な要素で変動する。今、導入されているダイナミックプライシングのアルゴリズムは、過去の予約や販売の実績を用いて販売期限までの需要だけを想定して価格を決定していることが多い。何が価格を決定づけるかのデータをもれなく把握し、需給ぞれぞれの要因を識別して分析できていない。

─ダイナミックプライシングはどのような商材に適しているのか。

依田 販売期限があって在庫性がなく、固定費に比べ、(生産量を1単位増やしたときに生じる)限界費用が著しく低い商材に適している。例えば、航空券のチケット、宿泊などは、1人(1部屋)追加した時の費用が低く、低価格で販売したとしても利益が出る。ただ、そのような商材であっても、販売開始から購買までの時間がないと難しい。行動経済学的に言えば、人間は限定合理的な存在であり、消費者が意思決定するには考えるという費用や努力も必要になる。合理的な判断を下すには1日、2日では少なく、1カ月ほどの期間がないとできない。

─販売期限のある商材では「ぎりぎりまで待って低価格になることを狙う」消費者によって、企業は低価格競争に陥り利益が減るのではないか?

依田 需要にはピークとオフピークがあり、ピーク時には価格が高くなり、オフピーク時には下がる。企業は価格差別を通じて、一律の価格で販売するより利益はあがるはずだ。


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