Wedge REPORT

2020年3月3日

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依田高典 (いだ・たかのり)

京都大学大学院経済学研究科教授

専門は行動経済学、応用経済学等。1989年3月京都大学経済学部卒業、95年3 月京都大学大学院経済学研究科博士後期課程単位取得退学、97年1月京都大学博士号(経済学)。2007年より現職。デジタル市場競争会議WGの座長を務める。著書は『「ココロ」の経済学』(筑摩書房)等多数。

─プラットフォーマーの行うECでもダイナミックプライシングが導入され、すでに個々の商材における価格の「参照点」や「判断基準」はわかりにくくなりつつある。

依田 プラットフォーマーのような実質的に代替がきかない優越的事業者が、探索的に価格を変動させ、消費者に有利誤認をさせて、購買を「強いる」ことも価格のバロメーターとしての機能を失わせることになる。

 また、プラットフォーマーは行動履歴などのパーソナルデータから個々の消費者に応じた価格を提示するパーソナルプライシング(個々の消費者に違う価格を提示する)を行う能力も持つ。これまで3000円の商品に5000円の価値を感じて購入した消費者には2000円の「消費者余剰」が生まれていたが、パーソナルプライシングにより5000円を提示されて購入すると、消費者余剰は事業者に丸ごと刈り取られることになる。

─今後はプラットフォーマーを中心にパーソナルプライシングに進んでいくのか。

依田 現状では、プラットフォーマー側も消費者の不当感による反発を恐れてか、それを行うことは自制している。将来的にプラットフォーマーがパーソナルプライシングに踏み込み、それが優越的な地位を乱用しているようであれば、規制することが必要だ。加えて、消費者自身も自衛することが必要だ。SNSなどを用いて、自らが納得できないことがあればプラットフォーマーを批判することも自衛につながる。

─ダイナミックプライシングはさらに浸透していくのか。健全に市場に浸透させるためにはどうすればよいか。

依田 本来、価格が需給に応じて変動することは社会的に効率的であるため、浸透していくほうがよいだろう。そのためには、この商材についてはこの価格の変動幅にする、という事業者と消費者の間での共通見解が必要で、今がまさにそれを積み上げている過渡期にあたる。それを補完するように、いずれは、人間の意思決定や判断力を助けるような、アドバイスをくれるサービスが登場するかもしれない。そのためにも「情報銀行」のような、プラットフォーマー以外の事業者でも、個人情報を匿名化したうえで、個々の購買情報を共有、分析できる仕組みがあるとよいだろう。

 もしかすれば、一歩間違えば「悪魔」になるかもしれないプラットフォーマー自身が、そうした「天使」になる可能性も秘めているし、そうなればよいと思っている。

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■「AI値付け」の罠  ダイナミックプライシング最前線
Part 1  需給に応じて価格を変動 AIは顧客心理を読み解けるか
Part 2      価格のバロメーター機能を損なえば市場経済の「自殺行為」になりかねない
Column   ビッグデータ大国の中国で企業が価格変動に過敏な理由
Part 3    「泥沼化する価格競争から抜け出す 「高くても売れる」ブランド戦略
Part 4     データに基づく価格変動が社会の非効率を解消する

  
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◆Wedge2020年3月号より

 
 

 

 

 

 


 

 

 

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