先月、社内システムを一新するとともに、新システムに対応するタブレット端末も社員に1人1台配布しましたが、どうやらまだ普及していないようなんです。社内ヒアリングによれば、旧システムのやり方を残していたり、上司の意向で紙の文化が残っていたりする部署があるようです。
同じ会社に、新システムを使用する人と旧システムを使用する人が併存すると、全員が旧システムだけを使用していた頃に比べて、非効率になってしまうことがあります。
なぜ、そういったことが起こってしまうのでしょうか。
人には「現状維持バイアス」があり、現状を好むあまり変化を嫌う傾向があるからです。今回のケースでは、慣れた旧システムを変更したくない気持ちがそれに当たります。
そう考える社員も、使い始めれば新システムの便利さをきっと分かってくれると思うのですが……。何か良いアイデアはありませんか?
開発途上国の人の技術受容を促すための行動経済学の工夫が参考になります。先進国の技術を途上国に輸出して、現地の人々の暮らしに取り入れてもらうときにも、同じハードルが出現します。
アフリカのマリ共和国で新しい〝調理器具〟の普及を試みた実験では、まず現地の女性を調理器具の講習会に招待するとともに、ランダムに他の参加者の購入情報を提供しました。
親しい友人や知人の購入情報が提供された人はそのままスムーズに購入に至り、逆に自分の知らない人の情報が提供された人はより頼りになる情報を求めて購入の意思決定を遅らせた、という結果が報告されています。
同じ年代の同僚や注目している社員がすでに使いこなしていることを知れば、技術を取り入れるハードルが下がるかもしれませんね。
その通りです!
コロナ禍では新しい生活様式が次々に提案されています。そのような状況下でも、スムーズに順応できた人の情報をうまく可視化することは、なかなか順応できない人の背中を押すことにつながります。
人は誰しも、未知のものや変化を避けて、現状を維持したいという心理的な傾向を持っている。
背景に損失回避という行動経済学の特性がある。「同じ100円でも、拾ったときの嬉しさより落としたときの悲しさの方が大きい」というように、人は損失に対して敏感だ。これまでの習慣を止めることは、客観的に想像される以上の喪失感を生む。それが現状維持バイアスにつながっている。
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COLUMN
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