社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2021年9月10日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

東北学院大学経済学部准教授

東北学院大学経済学部准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師等を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。
 

在宅勤務が増え、子どもと一緒に食事をする機会が増えた、本日の困ったさん。少々偏食気味で、野菜が苦手な子どもの野菜摂取を促進するには……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん:実は恥ずかしながら、4歳の娘の食事に苦戦中でして……。

佐々木先生:どういった点でお困りですか?

困ったさん:偏食気味で、野菜を積極的に食べようとしないのです。野菜は栄養価が高いので、今のうちに好き嫌いをなくしてあげたいのですが、子どもにも効果がありそうな行動経済学のヒントはないでしょうか。

佐々木先生:「三つ子の魂百まで」と言います。子どもの頃の食習慣は成人後も影響を残すと考えられるので、今のうちに野菜を自発的に摂取する習慣を身につけておくことは大事です。

 ただ、「野菜を食べなさい」と強制されると逆に食べたくなくなるのが人間心理ではないでしょうか?

困ったさん:たしかに、我々大人も誰かに自分の行動を決められるのには抵抗がありますね。

佐々木先生:「アクティブ・チョイス」と呼びますが、自分自身で選択するステップを挟むことで、子どものやる気が高まることが知られています。

 2~5歳の75人の子どもが参加したオランダの実験では、12日間の実験期間で、一方のグループには1種類の野菜を、もう一方のグループには2種類の野菜を添えて夕食を提供しました。1種類の野菜を提示して食べるように呼びかけるよりも、2種類の野菜を提示し「あなただったら、どちらを食べる?」と呼びかけることで、子どもの野菜摂取量が上昇したと報告されています。

困ったさん:子ども自身が選択できる余地を残して提供するんですね!

佐々木先生:その通りです。この実験のポイントは、野菜が2種類だというところです。たくさんの選択肢を提示すると比較検討が難しくなって、大人でも選択できなくなることが行動経済学では知られています。

 さらに、この実験では、野菜の組み合わせを毎日変えながら2種類の野菜を提示することで、いろいろな種類の野菜の摂取量を少しずつ増やすことができました。

 この工夫は、子どもと外出するときの服選びや靴選びにも使えるでしょう。ビジネスでも「A案とB案だったらどちらか良いですか」と上司に提案する方が、プレゼンがうまくいくかもしれませんよ。

 ひとくちメモ   カフェテリアの行動経済学
 社員食堂のデザインを少し工夫するだけで、社員の健康的な食事を手助けすることができるかもしれない。
 例えば、サラダバーの場所を中央に変更して目立たせたり、お菓子の代わりにフルーツをレジ横に置いたりすることで、サラダやフルーツの摂取量を増加させられる可能性がある。
 また、メニューごとにカロリーを表示すれば、社員自身の摂取量管理を促すことができる
 Wedge9月号では、特集「真珠湾攻撃から80年 明日を拓く昭和史論」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
 

  
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Wedge 2021年9月号より
真珠湾攻撃から80年
真珠湾攻撃から80年

80年前の1941年、日本は太平洋戦争へと突入した。
当時の軍部の意思決定、情報や兵站を軽視する姿勢、メディアが果たした役割を紐解くと、令和の日本と二重写しになる。
国家の〝漂流〟が続く今だからこそ昭和史から学び、日本の明日を拓くときだ。

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