2024年12月26日(木)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2021年12月25日

企業の社会的責任(CSR)の推進を担当する、本日の困ったさん。社員の自発的な社会貢献活動をうまくサポートしてあげたいのだが……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

困ったさん:今の企業には、営利追求だけでなく、環境への配慮や社会貢献など、世の中に対して「責任」を果たすことが求められています。

 当社も社員のそういった活動をサポートしようと「ボランティア休暇」を設けていますが、なかなか利用が進みません。もう少し社員が気軽に参加できる仕組みはないですか?

佐々木先生:「マッチング寄付」の導入を検討してみてはどうでしょう。社員の寄付に会社が金額を上乗せして、社員と会社が一緒に寄付する仕組みです。例えば、「毎月の給与から500円を寄付にまわせば、会社も同額を寄付して、2倍にして寄付先に届けます」と呼びかけるのです。東洋経済新報社の調査によれば、回答企業の2割がすでに導入済みだそうです。

困ったさん:自分が支払う2倍のお金を寄付できるなんて、なんだかおトクに感じますね。

佐々木先生:そうですね。マッチング寄付には人々の寄付を引き出す強い効果があることが、行動経済学の実験で知られています。

 例えば、「毎月の給与から1000円を寄付にまわせば、会社が半額を負担して、500円を返金します」と呼びかける場合でも、社員の寄付が500円・会社の寄付が500円・寄付先に届けられる金額が1000円という内容に変わりはありません。ですが、この「返金フレーム」よりもマッチング寄付の「上乗せフレーム」の呼びかけの方が人々の寄付を促進するのです。私が日本で行った実験でも、同じ現象が確認されました。

 上乗せフレームでは、寄付する喜びと共に協力する喜びも感じられる一方、返金フレームでは、返金によって寄付する喜びが削がれてしまうのではないかと議論されています。

困ったさん:せっかく寄付しても、そのお金が戻ってくると、「社会の役に立てた」という実感が減るのでしょうね。

佐々木先生:12月はクリスマス・シーズンや年末が重なることから、世界的に、一年で一番寄付が活発になる時期です。日本でも、「寄付月間」というキャンペーンが展開されています。社会貢献を促すはずの制度やメッセージが人々のせっかくの気持ちを阻害していないか、今一度チェックしてみましょう。

  ひとくちメモ    他の人は●●しています
 寄付の後押しには、他の人がいくら寄付しているかという情報を提供することも有効だ。寄付金額に関する相場観が分からない人にとって、他者の寄付金額は大いに参考になるようだ。
 米国のある実験で、寄付をしたいと電話をかけてきた人たちの一部に「別の方は300㌦寄付してくれました」と情報提供したところ、提供しなかった人たちに比べて平均寄付金額が約12%高くなったという。
Wedge1月号では、以下の​特集「破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
 マンガでみる近未来    高騰する物価に安保にも悪影響  財政破綻後の日常とは?
漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機  求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
 Column  飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
 COLUMN1  お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?  
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題  岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
​PART4 〝リアリティー〟なきMMT論  負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
 COLUMN2  小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
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土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)

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Wedge 2022年1月号より
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘(いざな)う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。“打ち出の小槌”など、現実の世界には存在しない。


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