困ったさん:今の企業には、営利追求だけでなく、環境への配慮や社会貢献など、世の中に対して「責任」を果たすことが求められています。
当社も社員のそういった活動をサポートしようと「ボランティア休暇」を設けていますが、なかなか利用が進みません。もう少し社員が気軽に参加できる仕組みはないですか?
佐々木先生:「マッチング寄付」の導入を検討してみてはどうでしょう。社員の寄付に会社が金額を上乗せして、社員と会社が一緒に寄付する仕組みです。例えば、「毎月の給与から500円を寄付にまわせば、会社も同額を寄付して、2倍にして寄付先に届けます」と呼びかけるのです。東洋経済新報社の調査によれば、回答企業の2割がすでに導入済みだそうです。
困ったさん:自分が支払う2倍のお金を寄付できるなんて、なんだかおトクに感じますね。
佐々木先生:そうですね。マッチング寄付には人々の寄付を引き出す強い効果があることが、行動経済学の実験で知られています。
例えば、「毎月の給与から1000円を寄付にまわせば、会社が半額を負担して、500円を返金します」と呼びかける場合でも、社員の寄付が500円・会社の寄付が500円・寄付先に届けられる金額が1000円という内容に変わりはありません。ですが、この「返金フレーム」よりもマッチング寄付の「上乗せフレーム」の呼びかけの方が人々の寄付を促進するのです。私が日本で行った実験でも、同じ現象が確認されました。
上乗せフレームでは、寄付する喜びと共に協力する喜びも感じられる一方、返金フレームでは、返金によって寄付する喜びが削がれてしまうのではないかと議論されています。
困ったさん:せっかく寄付しても、そのお金が戻ってくると、「社会の役に立てた」という実感が減るのでしょうね。
佐々木先生:12月はクリスマス・シーズンや年末が重なることから、世界的に、一年で一番寄付が活発になる時期です。日本でも、「寄付月間」というキャンペーンが展開されています。社会貢献を促すはずの制度やメッセージが人々のせっかくの気持ちを阻害していないか、今一度チェックしてみましょう。
寄付の後押しには、他の人がいくら寄付しているかという情報を提供することも有効だ。寄付金額に関する相場観が分からない人にとって、他者の寄付金額は大いに参考になるようだ。
米国のある実験で、寄付をしたいと電話をかけてきた人たちの一部に「別の方は300㌦寄付してくれました」と情報提供したところ、提供しなかった人たちに比べて平均寄付金額が約12%高くなったという。
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