社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2021年11月25日

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佐々木周作 (ささき・しゅうさく)

東北学院大学経済学部准教授

東北学院大学経済学部准教授。博士(経済学、大阪大学)。専門は行動経済学・実験経済学。三菱東京UFJ銀行・京都大学特定講師等を経て現職。一般向け書籍に『今日から使える行動経済学』(ナツメ社)等がある。
 

[著書]
夫婦共働きで、夫と協力しながら家事をこなす本日の困ったさん。夫が今よりも複雑な家事にチャレンジしてくれると助かるのだが……。
イラストレーション=石野点子 Tenko Ishino

佐々木先生:11月22日は「いい夫婦の日」と言われていますね。パートナーとの関係をより良いものにするためにご相談があるとお聞きしました。

困ったさん:わが家は共働き家庭で、家事を夫婦で分担しています。夫はわりと協力的ですが、決められた簡単な作業を引き受けるだけで、新たな家事を覚えようとしてくれません。

佐々木先生:日本では家事を女性に大きく依存しているのが現状です。国立社会保障・人口問題研究所の「全国家庭動向調査」(2019年)によると、家事の総量を100としたとき、その83.2を妻が担っていて、夫が担うのはたった16.8だそうです。

 また、夫は「ゴミ出し」や「食後の片づけ」など単純な家事を担うことが多く、「炊事」「部屋の掃除」といった段取りや計画性が必要なものに取り組むことは少ないようです。

困ったさん:わが家がまさにそうです!

佐々木先生:新しいことをやり切るには、予め準備をし、計画を立てる必要があります。そういう作業には、時間や認知的負担が伴いますよね。これは『思考費用』と呼ばれますが、人間には、この費用を避けるために普段やり慣れていることに逃げたがる傾向があります。また、新しいことには失敗リスクが伴いますが、リスクを回避したいというのは自然な感情です。

困ったさん:つい「なんでこんな簡単なことができないの」と思ってしまうんですが、夫にとっては新たな挑戦で、心理的ハードルが高いんですね。

佐々木先生:新しい家事に取り組んでもらうには、そんな夫の気持ちを踏まえ、少しお膳立てをすることが有効です。「行動指示」と呼びますが、最初にやること・その次にやること……というように、ゴールまでの道筋を具体的に明示してあげることで、安心して取り組むことができます。

困ったさん:夫ができないことを嘆くよりも、新しい家事を身につける手助けを心掛けます。でもなんで自分ばっかり、という気持ちにもなりそう。

佐々木先生:「旅行の計画を立てる」など、夫の得意分野ではお返しをしてもらいましょう! お互い日々の中で感謝し合うことが、いい夫婦関係を続けるためには大切です。

 ひとくちメモ   ヒューリスティックス
 新しい挑戦に伴いがちな思考費用を節約するために、直感的で簡便な思考に走ってしまうことを、行動経済学では「ヒューリスティックス」と呼ぶ。
 例えば、典型的な事例に則っているかを判断基準にすることは「代表性ヒューリスティックス」、自分の記憶から辿りやすい手がかりを優先して意思決定することは「利用可能性ヒューリスティックス」といった名称で分類されている。
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■日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
Part1 国民生活から国家までを揺さぶるサイバー空間の闇
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
InterviEw1 コロナ感染と相似形 生活インフラを脅かすIoT攻撃
吉岡克成(横浜国立大学大学院環境情報研究院・先端科学高等研究院准教授)
coLumn1 企業を守る手段の一つ リスクに備える「サイバー保険」 編集部
Part2 主戦場となるサイバー空間 〝専守防衛〟では日本を守れない
大澤 淳(中曽根康弘世界平和研究所主任研究員)
Part3 モサド元高官からの警告 「脅威インテリジェンス」を持て
ハイム・トメル(元モサド・インテリジェンス部門トップ)
Part4 狙われる海底ケーブル 中国サイバー部隊はこう攻撃する
山崎文明(情報安全保障研究所首席研究員)
Part5 〝国家〟に狙われる日本企業 経営層の意識変革は待ったなし
川口貴久(東京海上ディーアールビジネスリスク本部主席研究員)
coLumn2 不足するサイバー人材 「総合力」で企業を守れ  編集部
InterviEw2 「公共空間化」するネット空間 国民を守るために必要な機関
中谷 昇(Zホールディングス常務執行役員GCTSO)

  
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Wedge 2021年12月号より
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる
日常から国家まで 今日はあなたが狙われる

いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。

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