2024年4月25日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2022年6月17日

 新型コロナウイルス渦の2年余りでさまざまな動きがあった。テレワークの進展もその一つである。働き方改革がなかなか進まなかった日本で、必要に迫られて在宅勤務が広がり、それなりに定着したが、そこに至るまではさまざまな試行錯誤もあった。ウェブでの会議、企業の記者会見、オンライン飲み会などである。

(kazuma seki/gettyimages)

 中には利便性を確認できたものもあったが、ほどなく廃れたものもあった。ただ、テレワークに代表される社会環境の変化は、人々の考え方や生き方にも大きな影響を与えた。本書『日本人の承認欲求 テレワークがさらした深層』(新潮新書)はその実態を、誰もが持つ「承認欲求」という切り口から分析したものである。

テレワークにはない「刺激」

 著者は同志社大学における組織論の研究者である。長年「承認欲求」に焦点を当てた研究を続けているが、本書にまとめた観点は非常に斬新かつ理解しやすい内容である。

 テレワークは便利だが、生産現場や顧客を相手にする業務、高度なチームワークが要求される商品や製品の開発、相手の感性に訴えるような質の高いサービスをテレワークに切り替えるのは難しいとの声がある。そこには心理的な要因が作用しており、重要なのは「刺激」だと著者は説く。

 会社に行けば無意識のうちに、さまざまな刺激が得られる。通勤には多少の負担がともなっても、同時に新鮮な空気に触れられ、体を動かせば爽快感が味わえる。職場では同僚や顧客と仕事の話だけでなく、世間話や情報交換もできる。その都度、脳は活性化される。

 たしかに会社に行けば同僚と雑談したり、昼休みにランチに出たりなどの楽しみもある。しかし、テレワークではそうした「お金以外の報酬」を得ていないある種のむなしさを感じることがあるのは、経験した人であればわかる感覚だろう。テレワークで得られない「刺激」の中身は「無形の報酬」であるという指摘は鋭い。


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