冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2021年11月1日

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冷泉彰彦 (れいぜい・あきひこ)

作家・ジャーナリスト

ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『「反米」日本の正体』(文春新書)など。メールマガジンJMM、Newsweek日本版公式ブログ連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

 2020年から21年にかけての一時期、アメリカではホワイトカラーのオフィスワークは原則として全てリモート(テレワーク)となった。これは、感染対策の一環として各州政府が発動した強制的な措置、つまりロックダウンの一つとして行われた。

(kazuma seki/gettyimages)

 具体的には工場や建設現場、運輸、小売といったリアルでなくては成立しない職種を「エッセンシャル・ワーク」と定義し、それ以外の職種に関しては出勤を禁じたのである。ちなみに、企業として小売やサービスなど現業部門を持っていたとしても、総務経理など間接部門で知的労働が主である職種は同様に出勤禁止とされていた。

 一時期はウォール街を含むニューヨークのマンハッタンなど、世界有数のオフィス街から人影が消えた。また西海岸のシリコンバレーに林立する、ハイテク企業の巨大「キャンパス」も無人となった。

 その結果として何が起きたのかというと、リモートに移行した産業、すなわちハイテクと金融に関しては、短期的な業績としてはコロナ禍の影響を受けず、むしろ成長を続けて株価も上昇したのである。その背景には、2010年前後からアメリカではリモート勤務が部分的に多くの企業で導入されており、基本的なインフラ、つまり端末の運用や仮想ファイアウォールなどセキュリティ対策が完備していたことが指摘されている。

「リモートは生産性が高すぎる」という懸念

 だが、そのアメリカでは21年の夏以降は状況が変わってきている。感染拡大が沈静化し、ロックダウンが解除となるにつれて、リモート勤務の固定化を嫌う経営者たちが、従業員に対して続々とオフィスへの復帰を指示しているのだ。これに対しては、ワークライフバランスの観点から、リモートのメリットを享受してきた従業員の多くが抵抗を示しており、場合によっては離職も辞さない態度を取っていることから、人手不足が懸念される状況もある。

 では、アメリカの経営者たちは、どうして「オフィスに戻れ」と強く訴えているのかというと、「リモートは生産性が高すぎる」からだという。例えば、13年の時点で、当時ヤフーのCEOであったメリッサ・メイヤー氏は、すでに拡大を続けていたリモート勤務に対して危機感を抱き、従業員にオフィス勤務に戻るよう指示をして物議を醸した。

 その際にメイヤー氏は「リモートは日々のタスクを回すには生産性が良すぎる」「だが、企業にとって重要なのは5年先、10年先を見据えた新しい発想であり、これは雑談や非公式な議論から生まれるもの」であり、「リモートではこうした一見無駄な要素は排除されてしまう」と訴えたのである。

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