岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」。「成長と分配の好循環」を果たすものとして、具体策を議論する「新しい資本主義実現会議」の初会合が開かれた。衆議院選挙でも、いかに所得を分配していくか、与野党が鍔迫り合いを繰り広げている。
月刊誌『Wedge』10月号の特集「人をすり減らす経営はもうやめよう」では、世界でも有数のヒト、モノ、カネ、技術が存在しているにもかかわらず、人材や設備投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、結果として従業員の給与が上昇しないといった日本企業が抱える課題について検証した。今回は、その特集記事や過去の「WEDGE infinity」の記事から、新しい資本主義によって格差や安売り志向の日本を変えられるのかを考えてみたい。
「成長を目指すことは、極めて重要であり、その実現に向けて全力で取り組みます。しかし、『分配なくして次の成長なし』」「成長の果実を、しっかりと分配することで、初めて、次の成長が実現します。大切なのは、『成長と分配の好循環』です」
岸田首相が所信表明演説で掲げた経済政策への考え方だ。経済成長や効率を優先する新自由主義からの転換を図り、格差是正に取り組むことがまた成長を生むとしている。こうして新首相が新たに提示した〝理念〟により、3日後に迫る10月31日投開票の衆議院選挙においても、経済政策が大きな争点となっている。
なぜ、日本で格差が起こり、「分配」が議論となっているのか。新潟県立大学国際経済学部の中島厚志教授は「割り負ける日本企業の経営力 超・保守的姿勢を改めよ」で、「日本企業の〝超保守的な経営姿勢〟を見逃すことができない」と強調している。
日本企業は支出が収入を下回る貯蓄超過の状態を続けており、稼ぎを設備や人材に回さなかった。これで生産性の向上やイノベーションの創出を生まれず、人材の活用や高度化にもつながっていない。企業は低収益となり、「人件費削減が生産性を支えるゼロサム的な縮こまり経営が持続している」と中島氏は指摘する。