Wedge REPORT

2021年10月7日

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 中・高齢者の職業体験をつづった「日記シリーズ」でメガヒットを続ける出版社・三五館シンシャ社長の中野長武さん。Wedge Infinityでも『「非正規介護職員ヨボヨボ日記」が教えてくれる日本の現実』で、著者の真山剛氏にインタビューした。

 1976年生まれの中野さんは、まさにロスジェネど真ん中。数十社も受けて唯一採用され、18年間勤め上げた出版社「三五館」が2017年に倒産。その後、一人で「三五館シンシャ」を立ち上げた。Wedge誌21年10月号特集「人をすり減らす経営はもうやめよう」では、就職氷河期世代、いわゆるロスジェネについて「ルポ・ロスジェネの現在地 本当に必要な支援策とは何か?」をリポートした。記者も同じくロスジェネ世代の一人として、困難を乗り越えて成功した中野さんのこれまでの足取りを聞くべく、東京・神田小川町にある雑居ビルを訪ねた。

 扉を開けると、坊主頭で「目ヂカラ」が印象的な中野さんが出迎えてくれた。6畳ほどのワンルームに、2台の机があり、1台は中野さんの作業用、もう1台にはプリンタが置いてある。そして、壁には書棚。シンプルなオフィスだ。ただ、飾り気のない分、ガランとしていて少しさみしいようにも感じる。

中野長武さん

「さみしいとかは全然ないですよ。むしろ、一人だとストレスもなくて快適です」。記者もロスジェネ世代であるという自己紹介をすると、早速、中野さんが来歴を話してくれた。

「就職活動をするにあたって、具体的に何かがしたいということはありませんでした。ただ、本が好きだったので、働くなら出版社かな……」と、漠然とした気持ちで就職活動をしたが、受けるたびに不採用となったという。

「そこまで否定されるんだったら、自分で出版社を作ろうと思い立った」と、両親に300万円の借金を談判したが、「一人暮らしもしたことがないあんたには無理」とバッサリと断られた。そのまま大学も卒業してしまい、就職浪人になっても、中野さんはもがき続けた。「最初は、新聞の求人広告を見て応募していましたが、はじめは朝日の求人広告を見て応募していましたが、それも全部落ちたので、募集もしていない出版社に勝手に電話をしていました。面接はしてもらえるのですが、採用してくれる会社はありませんでした」。特に、中堅・中小の出版社ともなれば、未経験者を採用してくれることは少ない。それでも、唯一採用してくれたのが三五館だった。

「とにかく、怒られまくりでした。それでも、素人の自分を一から育ててくれました。それこそ徹夜作業ということも続きましたが、この経験が今の糧になっています」

 三五館で18年間勤務し、編集部の中核的な存在になった。「後半はそこそこ売れる本も作れるようになりました」と、『ジョコビッチの生まれ変わる食事』(15年)は15万部を超える大ヒットとなった。それでも会社の資金繰りは厳しい状況が続き、ある日「会社を畳む」と告げられた。17年10月5日のことだ。

 毎月3冊、編集者1人あたり毎月1冊というノルマをこなすべく、制作を続けていたので、大変だったのは、すでに原稿を書いてくれた筆者への謝罪だった。「もちろん、皮肉もいわれましたが、皆さん事情を分かってくれて、むしろほとんどの方が『仕方ないよ』と慰めてくれました」。それでも、中野さんは少しでも印税を渡したいという思いから、他の出版社に掛け合って文庫本として出版する段取りをつけた。

 40歳を超え、しかも家族もいる。相当な不安に襲われたのではないか……。

「元々、楽観的なタイプなので、それほど不安とかはなかったです。ただ、会社を閉じると言われたとき、自然に『じゃあ、一人で出版社をやろう』と思いました。その夜から、どんな本を作ろうかと、逆にワクワクして眠れなくなりました」

 17年12月には、「三五館シンシャ」を立ち上げたが、本を書店に配本してくれる出版取次会社との口座開設が難航した。元の「三五館」と混同されるということが理由だった。そこで助け舟を出してくれたのが、かつての同僚が務めるフォレスト出版だった。まだ1冊の実績もないのに、三五館シンシャの本は、フォレスト出版が販売を代行してくれることになった。

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