2022年12月9日(金)

Wedge REPORT

2021年10月28日

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日本は「豊かでない」国に

 こうした企業の保守的な姿勢や人件費の削減が実際の経済活動の数字にも表れている。世界的に豊かさの指標とされている国際通貨基金(IMF)が推計した主要国・地域の一人当たり実質購買力平価国内総生産(GDP)の推移によると、1980年代まで他国より高い成長をしてきた日本が90年代から停滞し、韓国やイタリア、台湾よりも低いという先進国で最低水準をやっと維持している状態となっている(原田 泰「なぜ、日本は韓国よりも貧しくなったのか」)。

 人件費の削減や国民が「豊かではない」と感じる状態は、日本経済の課題となっている物価にも顕著に表れている。

 物価研究の第一人者である東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授は「先進国唯一の異常事態 『安値思考』から抜け出せない日本」のインタビューの中で、80年代の日本の物価は他国に比べて高かったものの、バブル崩壊と平成の長い不況により、国民の物価に対する目は厳しくなり、日本経済の回復を見せても物価が上がらなかった、と指摘する。

 100円ショップをはじめとする安価な日用品や、ユニクロなどのファストファッション、牛丼やハンバーガーといった「ワンコイン」での食事を嗜好する国民の傾向は、金融緩和で数字的には好景気になっても変わっていない。「本来は物価も賃金も上がることが普通であるのに、賃金が上がらないという固定観念を持っている状態では物価上昇の話も拒んでしまう」と渡辺氏は説く。

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 経営者が賃金を上げたいと考えても、人件費の増加を価格に転嫁できないので躊躇し、賃金が上がらないと感じた消費者は、商品の価格が上がることに敏感になる――。こうした悪循環が今の日本の実態である。

求められる付加価値の創出

 では、日本経済はこのままジリ貧になってしまうのか。

 悲観論ばかりではないかもしれない。すでに高付加価値の商品を開発して販売している企業やそうした利益を従業員に還元している企業も存在している。

 大分県臼杵市に本社を置くフンドーキン醤油は、280㍉リットルで1350円の醬油を販売する。多くのメーカーがステンレス製の樽で半年ほどで醬油を醸造するところ、同社はヒバ製の木樽の3年余りの歳月をかける。(磯山友幸「世界一の木樽醤油に込める『家訓』」

 「製品価格を安くすると売れるが売上高の額は増えず利益はむしろ減る。しっかり価格を守ろうとすると量が減り、売り上げも利益も減る。成熟マーケットでどう生きていくかという大きな課題に直面した」と同社の小手川強二社長は振り返る。

 食の洋風化や外食・加工品・惣菜などの普及で、家庭での醬油の消費はシュリンクしていた。そうした中で、付加価値のある商品に舵を切った形だ。上記の商品は「好評につき完売」となっている。同社はそうした得た利益を従業員の給与へも還元できるよう意識もしている。

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