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2021年10月5日

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中原 淳 (なかはら・じゅん)

立教大学経営学部教授

専門は人材開発論・組織開発論。1998年に東京大学教育学部を卒業後、2003年大阪大学博士号(人間科学)取得。東京大学准教授などを経て、18年より現職。立教大学経営学部リーダーシップ研究所副所長などを兼任。主な著書に『職場学習論』、『経営学習論』(共に東京大学出版会)。

イラストレーション=Malte Mueller/Gettyimages

 大規模かつ長期間にわたるわが国の低成長期はまさに、日本企業における「人材育成」が機能不全に陥り、経営課題として横たわってきた期間とも重なる。それは必ずしも、個々の企業・組織の怠慢から生じたわけではない。むしろ、「ポストバブル期」と呼ばれる1990年代以降に日本企業を急速に襲った経営環境の変化がもたらした〝歪み〟のようなものだ。裏を返せば、日本企業がその機能不全を乗り越え、次世代の人材育成を再構築することこそが、人的資本の質を高め、「生産性」や「価格転嫁力」の向上をもたらすともいえよう。

 まず、ポストバブル期に生じた経営環境の「変化」を振り返ることで、現在の人材育成の機能不全を考察しよう。

 一つ目は、人事制度上の変化だ。90年代以降、バブルの崩壊によって長期化する不況に対応すべく、「長期雇用」「年功序列型賃金」の段階的な撤廃が行われ始めた。同時に、仕事の業績を給与と連動させる「成果主義制度」が相次いで導入された。

 業務成果を個人に負わせる人事制度のもとでは、労働者は自らの業績達成のために個人の業務に向かわざるをえず、結果として、職場の個人が他のメンバーの発達支援を担うという、日本企業らしさが失われていった。

 さらに、人材が流動化し、中途採用者の組織参入が活性化することで、職場の人材育成システムはさらに複雑化する。中途採用者に対し、入職したその時点から〝即戦力〟というラベルを付与することで、「周囲からの支援やケアをそれほど必要としない人」として扱われることが多かったのだ。

 だが、多くの場合、中途採用者が能力を発揮するためには、新たな職場の風土や慣習、社内システムなどへの馴化が必要なことが多く、そのための業務支援が不可欠だ。このような労働者の働き方の変化が、高度経済成長期における〝ムラ社会〟的な組織の人材育成制度を徐々に機能不全に追いやっていったのである。

 二つ目の変化は、国際化と情報化の加速である。90年代以降のインターネットの発達、さらに、2000年代以降のAIやITといった技術革新によって、世界中の企業の生産性は飛躍的に向上すると同時に、国際的な競争に晒されることとなった。

 その仕組みを生かし、新たなイノベーションや商品を生み出すことができる企業は、前例がない価値に対して値段をつける権利を手にし、先行者利益を得ることができる。GAFAのプラットフォーム事業や新型コロナウイルスのワクチン開発事業は、国際的な需要が見込まれる新たな価値を生み出した。さらに、テクノロジーを活用した企業は業務の自動化・効率化により、生産性を落とさずに余暇を生むことができる。

 デジタルに対応することができた国や企業は、それにより手にした資金的・時間的な余裕を人材育成へと投資することができる。一方、デジタルへの対応が遅れた多くの日本企業は生産性が上がらないまま、激化する国際競争の渦に飲まれ、長時間労働が常態化し、人材育成にかける資金的・時間的な余裕を失っていった。

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