高度経済成長期に急激に進んだ東京、大阪、名古屋に代表される大都市への人口集中は、1970年代にはひとまず落ち着いた。しかし、その後も東京へは、バブル崩壊直後の一時期を除いて人口流入が続き、いわゆる東京一極集中と呼ばれる現状へと至っている。
しかし、新型コロナウイルス感染症の流行は、こうした人の動きを変える可能性をもたらした。総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」によれば、2020年5月は外国人を含む移動者数の集計を開始した13年7月以降で初めて、東京都で転出超過となった。転出超過はその後も断続的に続き、大都市を避けて地方へと移住することを指す「コロナ移住」といった言葉も散見されるようになった。
一方で、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県から成る東京圏全体でみると、20年の1年間では、前年に比べ約5万人減ったものの、トータルで約10万人の「転入超過」となった。さらに詳しくみてみると、「コロナ移住」が起きていると言われた東京23区ですら約1万3000人、東京都では約3万1000人の転入超過になっている。東京圏への転入超過9万9000人のうちの残りの6万8000人が神奈川県、埼玉県、千葉県への流入である。
こうした転入超過の動きを月別に表したものが下図である。20年3月に東京都および23区への大きな流入が生じ、その後は断続的に流出が生じたものの、3月の流入が大きかったために年通算でみると転入超過になったことがわかる。また、神奈川県、埼玉県、千葉県も同様の推移を経て、結果的に3県で6万人を超える転入超過となった。
以上の動きは、19年までの東京への大きな流入とは異なるものの、コロナ禍であっても、新年度に向けて生じる新社会人や進学などによる人の動きは止められなかったことを示している。事実、緊急事態宣言の出ていた今年2月、3月にも、昨年と同様、東京圏全体で転入超過となった。
加えて、変化はむしろ都市圏内部で生じていることも示している。都市圏内部で、中心部への集中圧力が弱まり、郊外が拡大しているのである。同様のことはアメリカでも観察されている。
大都市圏に人が集まる
メリットとデメリット
日本において大都市へ人口が集中する背景には、大きな産業構造の変化がある。高度経済成長期に第一次産業から第二次産業へと産業構造が変化し、その後、第三次産業も急拡大した。さらに、近年のグローバル化とIT化により、必ずしも自前の工場などの巨大設備がなくても、国際分業による生産や研究開発、ソフトウエア開発などを通じて高付加価値を生み出せるようになった。
こういった近年の産業構造変化は、人や企業の空間的集積からの恩恵を増大させた。人や企業が空間的に集まることで、意図せずお互いにそのメリットを享受できることが知られている。これを「集積の経済」と呼び、例えば、適切な人材獲得や知識のスピルオーバー(拡散効果)、財やサービスの多様性などがそれをもたらす原因である。
東京には中央政府の行政機能が集中している。加えて、日本における国際的な玄関口であることもあって、企業の本社機能も集中する。そして、その集中が、「集積の経済」を通じてさらなる集中を引き起こす。結果として、東京都には2位の大阪府の2倍近い6万社以上の本社機能が〝一極集中〟している。
もちろん、「集積の経済」は本社機能だけではなく、幅広い経済活動に恩恵を与えるため、あらゆる側面で東京への集中圧力を生じさせる。一方で、人や企業が集まれば負の側面も生じる。その代表が、長時間の通勤や混雑の問題であり、「混雑の不経済」と呼ばれる。新型コロナのような感染症の流行も、人が集まることで自らが感染する、または、知らぬ間に他人に感染させる可能性を高めるという観点から、「混雑の不経済」の一つと言える。
究極的には、都市規模は「集積の経済」による集中圧力と、「混雑の不経済」による分散圧力とのバランスにより決まるが、長期的に都市の間の相対的な人口規模が変わらなくなる、つまり都市間で人口移動が起きず安定した状態に至ったときには、都市の規模が過大になることが知られている。