2024年11月22日(金)

Wedge REPORT

2021年7月16日

東京都心への通勤圏が
拡大する可能性

 では、人が流入し続けている東京は既に過大になっているのだろうか。既に過大であれば、今のうちにそれを是正する動きが必要になる。実は東京が過大なのかについて、実証研究では決着がついておらずエビデンスはない。ただ、通勤圏で定義した大都市圏を「大都市雇用圏」と呼ぶ(詳細は下図参照)が、それを用いた分析によると、現在の「東京大都市雇用圏」は、日本の他の都市に比べて、相対的には過大になっている可能性は高い。

(出所)東京大学空間情報科学研究センター提供の都市雇用圏データより筆者作成オレンジ色の範囲が「東京大都市雇用圏」で、その中の濃い色の市区が都市圏の中心都市である。東京大都市雇用圏は階層構造をもっており、全体の中心と、局所的な中心とが併存する写真を拡大
 さらに、大地震のような災害リスクを勘案すると、東京に重要な機能が集中していることは問題である。東京直下型地震などにより、日本全体が機能不全に陥る可能性があるためである。

 このように東京一極集中が進展してきた中で、新型コロナが流行し、社会に大きな影響を与えた。その影響は二つに分けて考える必要がある。

 一つは、感染症の流行それ自体の影響であり、もう一つは、感染症への対策として新たな技術や慣習が生まれ、人々の生活や行動様式などが変わることによる影響である。前者はワクチン接種が十分に進むと軽微になると考えられる。しかし、後者は、感染症が収束したとしても残り続け、定着する可能性がある。

 実際、感染予防策として、リモートワークやオンライン会議システムなどのツールを用いたリモートコミュニケーションが、ある程度社会的に受容されるようになった。一方、こうした変化を拡大解釈し、「今後はリモートワークの普及によって東京から地方への移住が増える」といった言説も見聞きするが、本当にそう言えるだろうか。

 リモートコミュニケーションツールの利用が都市にどのような影響を与えるのかについては、都市経済学においていくつかの実証研究がある。代表例を挙げると、電話網の発達や携帯電話の普及を対象に、リモートコミュニケーションツールの利用と都市化との関係を分析したものがある。例えば、スイス・ベルン大学のビュッヘル教授とエールリッヒ教授による研究では、スイスの国営通信会社・スイスコムの15年6月~16年5月の匿名化された通話記録のデータを分析し、通話の多くはごく近い距離で行われており、人口密度の高い場所にいる人ほど頻繁に、長く通話していることを明らかにした。

 こうした結果は、携帯電話のようなリモートコミュニケーションツールの普及は、人口密度の高い大都市に人が集まることを抑制するものでも、人と人との対面でのコミュニケーションを減らすものでもなく、あくまで〝補完する関係にある〟ことを示唆している。

 厳密に言えば、携帯電話と、昨今多くの企業などで導入しているリモートコミュニケーションツールは、全く同じものとは言い切れないが、テクノロジーの進化による新たなコミュニケーションツールという観点からは、同列のものと言えるだろう。つまり、現状ではリモートコミュニケーションは都市化を抑制するのではなく、むしろ〝促進する〟のである。 

 また、仮にコロナ禍が収束すれば、リアルとオンラインのハイブリッド型コミュニケーションの進化がさらなるコミュニケーションを生み、新たなイノベーションを生む好機になる可能性も考えられるかもしれない。 

 なお、現在リモートワークを採用している企業でも、一切通勤が必要ない、としている企業はまれで、ほとんどが、リモートワークを導入することで通勤の頻度を「減らしているだけ」である。これは、「混雑の不経済」である通勤時間や混雑による負担を軽減することを意味する。その結果、中長期的に考えれば、東京都心の企業に勤めることが可能な通勤範囲が広がる可能性もある。つまり、リモートワークの普及により、人々が郊外に移り、「東京大都市雇用圏」は拡大するのである。

 また、「混雑の不経済」が緩和されれば、新型コロナ収束後に、さらに東京圏への人口移動を誘発し、一極集中を加速する可能性すらある。


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