2024年12月23日(月)

オトナの教養 週末の一冊

2023年1月4日

 激動の一年だった2022年。ロシアのウクライナ侵攻、主要国のインフレと利上げ、安倍晋三元首相の銃撃など国内外で大きなニュースが続き、そうした時代を反映するような本が多く出版された。23年もこうした流れを引き継いで、先の見通しにくい環境が続くことが予想される。筆者が昨年末に手にした本の中から、年始の読書におすすめしたい本を選んでみた。

(Claudia Longo/gettyimages)

日本人の知らないアメリカ社会の問題

『引き裂かれるアメリカ 銃、中絶、選挙、政教分離、最高裁の暴走』(SB新書)

 現代アメリカが抱えるさまざまな問題を具体的なニュースに即しながら解説した本が『引き裂かれるアメリカ 銃、中絶、選挙、政教分離、最高裁の暴走』(SB新書)である。カリフォルニア州在住の映画評論家でコラムニストの町山智浩氏がオレゴン州在住の女優・藤谷文子氏と対談しながら、日本人の知らない当世米国事情を分かりやすく読み解いている。

 本書では、人工妊娠中絶や銃規制問題、陰謀論、監視資本主義など日本ではあまり詳しく報道されないものの、アメリカでは大きな社会問題になっているテーマが次々と繰り出される。そこには日本のみならずアメリカでも主要メディアがあまり扱わないような社会の現実が示されている。

 米国では1973年の最高裁判決以来、女性の権利として守られていた人工中絶を、22年6月、その同じ最高裁が覆し、中絶の権利は各州の判断に任せるとしたため、多くの州で事実上、人工中絶は禁止・違法となった。最高裁判事は9人のうち6人がカトリック信者であり、宗教上の理由から中絶反対という偏りぶりである。

 一方、銃の乱射事件が絶えないアメリカでは、人口よりも銃の数が多く、テキサス州では酒が買えない年齢でも銃を合法的に買うことができるという環境にある。またアメリカ南部では州知事や州務長官の権限で黒人居住区の投票所を1000カ所以上閉鎖するなど、およそ民主主義の大国とは思えないようなことが現実に起きているのである。

 さらにアメリカ社会に多大な影響を与えているいわゆるフェイクニュースとその中に潜む「陰謀論」の実情についての指摘も興味深い。

 本書ではなかなか日本では十分把握できないアメリカ社会の深刻な問題が示されていて大いに考えさせられる。全米各地を回る徹底した現場取材が、各地で起きている異常事態をリアルに伝えている。今後24年の大統領選挙に向けてどんなことが議題になってゆくのかについてもつかむことができる。


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