50代に入り、定年を意識するようになった世代には気になる本である。職場で定年を迎えた後にどんな生活が待ち受けているのか。働き盛りで現役真っ最中の人には、イメージしづらい未来だが、会社や組織で働く人に定年は原則、平等に到来する。本書『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社新書)はそのぼんやりした部分に具体的な事実で光を当てつつ詳しく解説する。
厳しい高齢者の懐事情
著者がまず指摘するのは、定年になると年収が300万円以下になる人が大半になるというシビアな現実である。所属する先にもよるが、定年前はそれ以上の収入を得ていた人も多い中で、収入減という現実に直面する。
一方で 生活費は ひと月あたり30万円弱まで低下するとも示す。収入も減るが、必要となる支出額も減る。著者は「壮年期には世帯で月60万円ほどの額が必要とされる労働収入であるが、定年後は年金に加えて月10万円ほど労働収入があれば家計は十分に回る」という。
もう一つ 印象的なのは、高齢期の就業率が急速に上昇しているという事実である。70歳の男性の就業率は45.7%と国勢調査は示す。2000年代以降に定年後も働き続けるという潮流が高まったと著者は指摘するが、 その理由について以下のように分析する。
バブル経済の崩壊以降、人々の生活水準向上の歩みは遅々として進まなくなってしまう。経済成長率の鈍化や人口の高齢化によって 、中高年の賃金や定年後の退職金は減少し、政府の厳しい財政状況から厚生年金の支給開始年齢引き上げなどによる公的年金の給付水準の引き下げも進んだ。こうしたなか、寿命の延伸によって増加する老後生活費の原資を高齢期の就労なしに獲得することが難しくなってきている。昨今の経済的な事情が働き続けることを選択する人が増加していることの主因になっているとみられる。