著者は実際に関係者にインタビューして定年前から定年後にかけて、新たな歩みを進めた人々の声を紹介している。注目されるのは、組織の中で正規の雇用者として働き、定年後に収入の水準を落としながらも 前向きに働く人たちの実際の声である。
この中で防衛大学を卒業後、自衛隊に長く勤め、幕僚監部などを経て退職後は女性看護師寮の管理人として働いている人の例が紹介されている。職業人生の転機に葛藤を抱えつつも、自分の気持ちに折り合いをつけてキャリア転換を図り、充実した日々を送っている様子が見て取れる。
小さな価値ある仕事で貢献を
本書はこうしたケースを踏まえ、定年後も働き続けるために必要なことは、転機に真摯に向き合い、自分にできることを振り返りながら、目の前にある仕事の選択肢を見つめていくことだと説く。さらに、定年後に最低限どの程度の仕事をしていく必要があるのかは、家計に必要な額から逆算して考え、無理のない範囲で給与を稼ぐための適切な戦略が必要になるとも強調する。
自分の経験や能力に応じて稼げる時に稼ぎ、さらに先入観にとらわれずに広い視野で社内外の多様な仕事に目を向けることの重要性を指摘する点は理解できる。そして定年後の就業者が従事している仕事は多くが生活に密着した仕事であることをふまえて、それがたとえ小さな仕事であっても価値ある仕事だという考え方には大いに賛同できる。
著者はこう指摘する。
本書の指摘は一定年齢以上の人には、かなりの現実味をもって迫ってくるだろう。筆者もその一人である。
定年後の人生は、それを経験した人でないとわからない部分もあるのは確かだが、本書のような作品から事前に学び準備することはできる。長寿命社会を充実して生きるためのヒントが多く詰まった人生の良質な指南書である。