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オトナの教養 週末の一冊

2022年8月19日

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『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーコンテンツ消費の現在形』(光文社新書)

 本書『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレーーコンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が、さまざまなメディアで取り上げられ話題になっている。

 周辺で映像作品の倍速視聴や10秒飛ばしが予想外に多いことに違和感を覚えた稲田豊史さんが、昨年ウェブに記事を書き、追加取材の上、今年4月に刊行した著書である。

 マーケットリサーチ会社の昨年3月の調査では、20~69歳の日本人男女で倍速視聴の経験者は3割強、20代の男女では約5割。別の青山学院大学の調査では、倍速視聴をよくする・時々する学生が、3人のうち2人を占める。

 若い世代ほど倍速視聴が根付いているのだ。

「本書によると、Netflixなど定額制動画配信サービスの普及で作品数が圧倒的に増えたこと。TV番組のテロップ過多に慣らされ、説明のないシーンを不親切に感じる人が多くなったことなどが、外部要因とされていますね。内部要因は、仲間とのSNSの話題として映像作品情報が必要だったり、誤った解釈などで失敗したりすることを避けたい。また、本来ストレス解消のためなので不快な場面も避けたい。結局、快適主義が観る側にある。すると、一言で言えば、映像作品の多さをコスパよく乗り切って快適になるため、倍速視聴や10秒飛ばしを行う?」

「いや、TV番組の出演時にも倍速視聴の理由を〝一言で〟などとよく求められましたが、一言で言えないから本を書いたわけです(笑)。快適主義にしても、若い世代特有ではなく、世代を超えた傾向です」

 確かに、一言以下は性急。私は詫びて、いつも通りに疑問点から尋ねた。

「倍速やスキップする人は、どうでもいい日常会話、歩くシーンや無言のシーン、風景などを飛ばすそうですが、そうした鑑賞法で共感できる点はありますか?」

「ありません。私は映画配給会社出身でDVD業界誌の編集者でもあったので、監督や脚本家が何のために無言シーンや風景を入れたのか、制作側の意図を汲むような観方をしたいのです。ただし」

 と言って、稲田さんは付け加えた。日本の小・中学校では映画の観方を学べるだろうか? と。映画鑑賞や美術の時間は、ただ映像作品を観るだけ。何に着目して鑑賞するかについて体系的に教わる機会はない。映像リテラシーを培う機会がないまま、人々は社会に出て行くのだ、と。

観方の押しつけ論

「直接的な反論はどうでしょう? どう観ようと勝手、観方を押しつけるな、わかりにくい作品を作る作り手が悪い、などですが?」

「現状では、観方の押しつけ論は、一理あるかもしれません。スーパーの牛肉に、『牛丼にするとおいしい』と添え書きがあっても、『いや、私はこう食べる』『違う食べ方をしたい』という意見は、当然あると思います」

 ついで稲田さんは、今回取材した早送り・ネタバレ視聴派の中で気になった発言として、Z世代(10代前半~20代半ばの若者)の女性の述べた言葉を挙げた。彼女は「メンヘラになりたくない」と語ったという。

 メンヘラとはメンタルヘルス(精神衛生)。ここでは精神的不安定の意味である。

 「彼女が言うには、事前に予想していなかった感情が湧き起こったり、心が揺さぶられたりするのは嫌で、自分の感情はつねに制御下に置いておきたいそうです。というのも、感情を制御下に置いておけない人の典型が『メンヘラ』とされているから。『メンヘラ』はSNSでみっともない姿を晒しているから、ああはなりたくない。先に結論を知っておいたほうがドギマギしなくていい。だからネタバレサイトを利用すると」

 当初は「宇宙人」のように思えた早送り・ネタバレ視聴派にも、当事者なりの理論があるのだ。

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