2024年4月20日(土)

オトナの教養 週末の一冊

2022年8月19日

映像をコントロールできないことが想定外という世代

(hapabapa/gettyimages)

「すると今後も、『最短時間、最小の労力で入手し、嫌になればすぐ離脱する』映像視聴の傾向は、まだまだ続いて行く?」

「当然、そうなるでしょうね」

 稲田さんによれば、Z世代より若い現在の中・高校生は、物心がつく頃からタブレットの動画を見て育った。タブレットでは、自分の好きな画面を、自分好みのタイミングで見るのは当り前のこと。逆に映像をコントロールできないこと自体が、想定外だ。

「もちろん、全員が、ということじゃないですよ。Z世代でも、その次の世代でも、倍速や10秒飛ばしは表現者に失礼、と考える人は一定数います。年齢に関係なく、従来の等倍視聴を順守する人々は今後も残り続けます」

 そうなると、映画やドラマの作り手の側は、これからどんな作品を作ればいいのか。

 稲田さんは、作り手側としては3つの選択肢が考えられる、と語った。

「①は、倍速・10秒飛ばしの視聴者層に合わせた作品作りです。結論を先に言ったり、状況をセリフでわかりやすく説明したり、余分な間をはぶいたり、ですね。②は、視聴者の早送りなど一切気にせず、これまで通り自分の作りたい方法で映像を作り続けるやり方。③は、オープンワールドゲームのように、広く深い作品作り。つまみ食い的に浅く見てもわかるし、テーマを掘り下げても味わえる、双方満足な作品です。ヒット作『カメラを止めるな!』の映画監督の上田慎一郎さんは②と言っていました。観客におもねりたくない、という意見です」

 倍速視聴肯定派の思いを「理解したい」と本書を執筆した稲田さんは、基本的には倍速視聴否定派である。そんな稲田さんが、本書で一つ、身体的な提案をしている。

 映画・ドラマを無断で短く編集したファスト映画を、ネットに投稿すると著作権法違反で有罪になるが、ファスト映画を映画会社自らが作ったらどうか、というのだ。

「映画会社が作り、公式の販促メディアとして利用すればいい、という提案?」

「ええ。私、映画配給会社にもいましたけど、ある映画関係者が言ってたんですね。『いくら取り締まってもニーズがある。それならいっそこちらが作った方がいい』と」

 映像作品の視聴がTVモニターではなく、自室のパソコンやタブレット、スマホなどに移った現在、倍速視聴というワガママかつ合理的な鑑賞(というよりコンテンツ消費)は時代の必然。もはや後戻りはできない、という認識だ。

「本書を書き終えて、今思っていることは?」

「私はライターとして、映像視聴の変化について議論の口火を切りたいと願っていたので、今この本を巡り各方面で議論が沸き起こっていることは、とても嬉しいです。書いてよかった、とつくづく思います」

 そう言ってから、少し首を傾けた。

「ただ、フッと思うんですが、現在の映像コンテンツの数量は、個々の人間にとってそもそも多すぎるんじゃないでしょうか。現在の作品数や情報量を、生身の人間はとてもこなしきれない。ひょっとしたら、人類にとって、インターネットやSNSの登場そのものが、時期が早すぎたのかもしれませんね。人類の知能なんて、1000年前、2000年前と比べて、それほど大きく進化していない気もします……」

   
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