「国防総省の秘密エージェントだ」――飛び交うデマ
New York Times紙はその前日、スウィフトさんの交際相手で アメリカンフットボール(NFL)選手トラビス・ケルシーさんがプレーする「キャンザスシティ・チーフス」が、今季の最高峰を決めるスーパーボウル(2月11日開催)でサンフランシスコ・フォーティーナイナーズと対決することになったことと関連し、トランプ支持派が「全米が注目する試合のハーフタイムショーにスウィフトが登場することになれば、それだけで選挙戦に影響が出る」として、さまざまな非難中傷作戦に出ていると報じている。
それによると、代表的トランプ政治組織として知られる「Make America Great Again=MAGA」はすでに、スウィフトさんについて「国防総省の秘密エージェントだ」といったデマ情報や、「バイデン再選正式支持表明に向けて彼女自身がファン層固めに乗り出している」「もともと彼女とケルシーの関係は、プロフットボールビジネスを盛り上げるためにNFLが以前から意図的に作り上げたラブストーリーだ」「NFL自体が民主党の巣窟と化している」といった根拠のないフェイク・ニュースを拡散させているという。
Fox News も最近、これに相乗りし「スウィフトさんが世界ツアーなどで利用するプライベート・ジェット機は何トンもの二酸化炭素(Co2)を各国上空にまき散らしている」とたんなる推測に基づく関連ニュースを流した。
トランプ支持派がこれほどまでにスウィフトさんの動向と存在に神経をとがらせるのは、彼女が途方もない人気と影響力を持っているからに他ならない。
全世界を舞台にスタートした「エラズ・ツアー(The ErasTour)」と呼ばれる自らの公演旅行(2023年3月~2024年11月)では、すでに昨年1年間、全米各都市、中南米諸国でのライブコンサート60回分の興行だけで10億4000万ドルという記録的収益をもたらした。今年は日本、韓国などのアジア各国、欧州、アフリカなどを含めあと89回の公演が予定されており、最終的なチケット売り上げは空前規模になることは確実だ。
さらに歌手としての絶大なるアピール力のみならず、自ら発信するインスタグラムには2億7900万人ものフォロワーがついているといわれる。
しかも、デビュー当初、年齢的に10歳代前半から後半までのティーンズで占められたファン層も、今や選挙権のある20歳代となってきただけに、彼女の発するメッセージ力、とくに政治に関する発言への注目度が一段と高くなってきた。
とくに、以前は政治的発言を控えていたスウィフトさんだったが、2018年の中間選挙では、家族が邸宅を構えるテネシー州で、上院、下院の二人の民主党候補への支持を公然と表明、政界でも一目置かれる存在となった。そして、20年大統領選ではバイデン支持に回り、当選に一役買った形となっている。
その後、スウィフトさんはインスタグラムなどを通じ、「私は基本的人権尊重を信じており、LGBTQなどのための運動を支持していく」などと、自らの信念を披露している。また、新型コロナ危機の際にワクチン接種などに消極的だったトランプ政権当時の医療政策を厳しく批判したことから、共和党にとって〝要注意人物〟としてマークされてきた側面もある。