2024年5月17日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2024年2月24日

料理は立派な科学です

化学の授業をはじめます。
ボニー・ガルマス(著)、 鈴木美朋(訳) 文藝春秋 2750円(税込)

 主人公エリザベス・ゾットは、科学者として生きたい、だから愛している人と共に暮らしていても結婚はしないという強い意志を持つ。舞台は1960年代の米国。生きづらくても自分を曲げない。ところが、未婚のシングルマザーになり、それが原因で職場だった研究所を追い出されてしまう。そんな時、テレビの料理番組の出演オファーがあり、不本意ながら生活のために応じる。エリザベスの意志の強さに共感させられると共に、言葉を理解する犬シックス・サーティー、早熟な娘マッドも魅力的だ。「全米250万部、全世界600万部。2022年、最も売れたデビュー小説!」という通りの最高の小説。

女性を取り巻く現状把握

女性の世界地図 女たちの経験・ 現在地・これから
ジョニー・シーガー(著)、 中澤高志/大城直樹/荒又美陽/中川秀一/三浦尚子(訳) 明石書店 3520円(税込)

 「女性の世界では、『先進』国はほとんど存在しない」。本書は女性に関する現実をデータに基づいて視覚的に訴える地図帳だ。例えば、男性が投票権を獲得してから123年後に女性の選挙権が初めて認められたスイスのデータや、国政における女性議員の世界平均割合は23%でしかないというデータなど、世界全体のさまざまな女性の現状が見えてくる。政治のほかに、名誉殺人や持参金殺人などの性暴力について、さらには識字率や健康についてまでも網羅された一冊だ。

広告が与えるジェンダー表現

ジェンダー目線の 広告観察
小林美香 現代書館 2200円(税込)

 街中にある広告にはジェンダー表現が多く潜んでいる。女性に向けた脱毛広告では、「ムダのない肌=美しい肌」という他者評価による美しさの前提があり、そのコンプレックスをつつく表現が使われている。一方、男性向けの広告では、脱毛をケアではなく「自己管理・鍛錬」として扱い、「デキル男」像と結びつけている。このような「呪縛」から逃れるために、表現を俯瞰して個人としての感覚を持つことが必要なのではないか。当たり前の風景が違って見えてくる。 

   
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Wedge 2024年3月号より
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう
ジェンダー平等と多様性で男性優位の社会を変えよう

「育児休暇や時短勤務を活用して子育てをするのは『女性』の役目」「残業も厭わず働き、成果を出す『女性』は立派だ」─。働く女性が珍しい存在ではなくなった昨今でも、こうした固定観念を持つ人は多いのではないか。 今や女性の就業者数は3000万人を上回り、男性の就業者数との差は縮小傾向にある。こうした中、経済界を中心に、多くの組織が「女性活躍」や「多様性」の重視を声高に訴え始めている。

内閣府の世論調査(2022年)では、約79%が「男性の方が優遇されている」と回答したほか、民間企業における管理職相当の女性の割合は、課長級で約14%、部長級では8%まで下がる。また、正社員の賃金はピーク時で月額約12万円の開きがある。政界でも、国会議員に占める女性の割合は衆参両院で16%(23年秋時点)と国際的に見ても極めて低い。

女性たちの声に耳を傾けると、その多くから「日常生活や職場でアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を感じることがある」という声があがり、男性優位な社会での生きづらさを吐露した。 

3月8日は女性の生き方を考える「国際女性デー」を前に、歴史を踏まえた上での日本の現在地を見つめるとともに、多様性・多元性のある社会の実現には何が必要なのかを考えたい。 


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