2024年5月17日(金)

Wedge REPORT

2024年4月3日

 2015年に就役した護衛艦いずもは、F-35B戦闘機を搭載するための第1回改修工事を21年6月に終えた。この際、艦首から艦尾を貫く1本の黄色い標示線(トラムライン)が描かれた代わりに、艦首と艦尾にペイントされていた艦番号がロービジー(低視認)化された。

 そのため、動画に映る「いずも」は21年6月以降の姿であると言える。次に重要なのは、実写派が指摘する米海軍イージス艦シャウプの存在だ。同艦は22年12月に横須賀基地に配備され、南シナ海などで哨戒任務に就いた後、本年1月に帰投し、岸壁でメンテナンスを受けている。

 つまり、これらの条件から、「いずも」がドローンで撮影されたとすれば、今年に入ってからということが分かるだろう。ちなみに言うと、SNSでは衛星写真や気象情報を活用して、調査報道機関「ベリングキャット」並みの考察が行われている状況だ。

専門家でも難しい生成AIの鑑定

 では、とどのつまり動画は実写なのか、AIによるものなのか。東北大学データ駆動科学・AI教育研究センターの栗林稔教授に話を聞いた。栗林氏は、周波数成分や特徴空間での成分において、異常となる信号の有無を解析して、生成されたコンテンツであるか否かを識別するマルチメディアフォレンジクス技術の第一人者だ。

 「まず、画像や動画の生成AIは日進月歩で技術が進化しており、視覚的な特徴だけで判別することはかなり難しいのです。そのため、マルチメディアフォレンジクス技術が研究されています。

 この動画(Xに掲載されているもの)については、データ圧縮のための処理が強くなされており、解析用の信号成分を取り出すことが非常に困難です。圧縮により生じた歪みであるか否かが判別できないと言う意味ではなく、そもそもデータ生成時に生じる形跡が圧縮処理により取り除かれているのです」

 栗林氏はこう説明した後、動画がAIで生成されたものか否か、「確信を持った意見として申し上げられないため、生成AIを用いた可能性に言及することは差し控えたい」と述べた。

 栗林氏が指摘した圧縮処理は、撮影時あるいは生成AIで作成した動画を保存する際にデータ量を削減する時と、SNSにアップロードする時の2段階で行われる。今回の動画はXにアップロードする際に強く圧縮されたものと考えられるが、栗林氏は「最初の段階で解析を困難にするために強く圧縮された可能性もある」と指摘する。

 実は栗林氏以外にも話を聞いたのだが、いずれの専門家からも「真贋がはっきりしたもの以外はコメントが難しい」と断られた。上述のとおり、専門家であっても生成AIによる動画を見破ることは難しいのだ。


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