神経伝達物質であるセロトニンが少ないためにうつ病になるのではない。うつ病になったことで、あたかも動物が冬眠するかのように、活動が抑えられるために体がセロトニンを減らしていると考えるべきではないでしょうか。うつ病を病理的に脳の病気というハードと捉えるか、自身の体験からくるソフトとみるか大きな違いがあります。
医師の考え方や抗うつ薬そのものを全面否定する気はありません。初期の段階ならば、その方が時間も手間も少なく済むからです。それに対しカウンセリングは、時間もお金もかかります。まずは薬で治るならそれでいい。しかし、治らない場合はカウンセリングで治すしかありません。
豊かになっても人は幸せになれない
―― 書店に行くとうつ病に関する書籍が並んでいます。著者の大半は医師ですが、医師は慢性うつをテーマにした本を書いていないようです。治せないからでしょうか。偏った見方かもしれませんが、現状の薬は限定的といえるような気がします。うつ病に陥る根本原因は、自身の体験にあるということですが、もう少し詳しく教えてください。
緒方:うつ病の根本にあるのは、無意識に抑圧された怒りと悲しみです。この話をすると「どんでもない。自分は怒りがあるからうつになったのではない」という反発を受けます。言い方を変えると、うつ病を治そうと考えている人は治るが、うつ病に逃げ込んでいる人は薬もカウンセリングをしても治りません。このような発言をしてネットで炎上したことがあります。誹謗中傷の嵐でした。本質だから、核心を衝いているからこそ自己防衛のために反論する。それで炎上したのだと思います。
自身の体験ということでは、養育期に親から厳しく育てられた経験が潜在的に怒りとして蓄積されている。これは私の研究成果でなく、数十年前から論文等にある学説に基づいています。身近な人を失った悲しみもあります。この話は『慢性うつ病は必ず治る』に書きました。
逆に過剰な甘やかしで育てられた場合は、「新型うつ」になります。日本独自ともいえる現象です。米国では高校を卒業すると独立していくのが一般的で、早くから独立心を養うので、日本的な「新型うつ」は、ほとんど見られません。これは『すぐ会社を休む部下に困っている人が読む本』に詳細を書いています。「従来型」と「新型」は症状も行動パターンも対称的ですがともに親の干渉の仕方に問題があります。