一度は断念したスタントマンへの夢を追ってアメリカへ。厳しい現実を生き抜く戦いで心身を鍛え上げ、ついに憧れ続けた世界へとたどり着いた。ハリウッドが認めたその高度なスタントワークで、アクションの美学を追求する寡黙な挑戦は続く。
スタントマンの頂点へ
短く刈った髪、薄手のTシャツの肩を盛り上げている筋肉、アスリートを思わせる贅肉のない引き締まった身体。精悍な顔に戸惑い気味の表情が広がる。
「取材とか初めてなんで、何か緊張しちゃって……」
ロサンゼルスに住み、ハリウッド映画に出演している南博男。43歳。でも、その名前を知っている人はほとんどいない。アクション映画の観客が最も手に汗を握る派手なアクションシーンで、危険を伴う撮影を俳優の代わりに演じるスタントマンである。
命懸けの仕事をしていても、決して表舞台に立つことはない。俳優のスタントダブル*を務めても、エンドロールにその俳優と並んで名前が出ることはない。あくまで影として危険と向かい合ってきた南博男の名前が世に知られたのは、2010年春。「トーラス・ワールド・スタント・アワード」という、ハリウッドで毎年開催されるスタントマンやアクション部分のコーディネーターなどに授与される、アクション界のアカデミー賞といわれる国際映画賞で、日本人初のベスト・ハイワーク部門の最優秀賞を受賞したのである。
高所からのジャンプやダイブに関するスタントが対象のベスト・ハイワーク部門と、体当たりで演じるハーデスト・ヒット部門の両方にノミネートされ、ベスト・ハイワーク部門での受賞となった作品は「PUSH 光と闇の能力者」というSF映画。超能力者の念力で飛ばされ、2センチの厚さのガラスを突き破り8メートル下の車に落下するというスタントでの受賞だった。
8メートルといえば建物の3階から落下する感じだろうか。車の窓ガラスで5、6ミリというから、その3倍以上の分厚さのガラスをどうやって突き破ったのか。
*演技の中で危険度の高いアクション部分を役者と同じ演技内容・動きで代演する