エネルギー・環境政策調査のためにパリにいるが、この原稿を書いている3月3日夜の英国BBCを初めとする当地のテレビ放送はウクライナ情勢の報道一色だ。BBCは、米国ケリー国務長官の発表を、「とても外交的とは呼べない激しいロシアに対する非難」と伝えている。
天然ガス供給を材料にプーチン大統領が恫喝していたウクライナは、キエフを中心とした大衆の行動により欧州連合(EU)との同盟関係締結に舵を切ることになった。この動きに反発したロシアがクリミア半島に侵攻したのは報道の通りだ。
天然ガス供給を材料にしたロシアのウクライナ、欧州に対する影響力の行使は過去に何度か行われてきたが、米国に端を発したシェール革命がこのロシアの地政学を将来変える可能性がある。
天然ガスを材料にウクライナを脅すロシア
2006年と2009年に、ロシアはウクライナが天然ガスを抜き取っている疑いがあるとし、さらにウクライナとのガス料金の交渉が紛糾したことを理由に天然ガス供給を中断した。EUに近づくウクライナを牽制するためにロシアが利用したのはいつも天然ガスだった。当時欧州向け天然ガス供給の80%以上はウクライナのパイプライン経由だったため、結果として欧州向け供給も殆ど中断することになった。
「プーチンに脅され、市場に裏切られ凍える英国」でも書いたように、今回プーチン大統領が、ウクライナのEUとの連合協定調印を阻止するために利用したのも天然ガス供給だった。EUとの調印を諦めたヤヌコビッチ前大統領が得たロシアからの見返り援助の中には、天然ガス価格の約30%の値下げも含まれていた。
ウクライナ新政権のEU接近が明らかとなり、ロシアの天然ガス供給企業ガスプロムは「ウクライナは13年と14年の供給分として15億5000万ドルを払っていない」と主張し、さらに一旦合意したガス価格の値下げも反故にする意向を示していると報道されている。
ロシア離れを画策するEU諸国
対抗するロシア
過去2回のロシアとウクライナの紛争の影響を受けたEU諸国は、その後天然ガスの備蓄を進めるとともに、ウクライナとロシアの紛争の影響を避けるために、二つの策を取ることになる。一つはロシア以外の生産地からの天然ガス供給を確保する多様化だ。もう一つがウクライナを経由しないロシアからの天然ガス供給ルートの開拓だった。