チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年5月27日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

中国の人権派弁護士の浦志強が5月3日、元中国社会科学院研究員の徐友漁ら改革派知識人と共に、1989年の天安門事件を振り返る内輪の集会に参加した後、騒動挑発罪の容疑で当局に拘束された。「言論の自由」の不当な侵害と考えられる事例に着目し、記者、作家、芸術家、一般市民の弁護を引き受けてきた浦弁護士。政府にとっては当然目障りな存在であったであろう。彼のこれまでの功績、そしてこれから何をしようとしているのか、なぜ今このような状況に置かれているのかを考えていく。(前篇はこちらから

重慶で労働教養の処分撤回を要求

 2013年、浦志強は米・フォーリンポリシーの「世界を率いる100人の思想家」、『中国新聞週刊』や『人物』といった国内の雑誌の「今年の人物」に選ばれた。毛沢東時代の1957 年から続き、人権侵害の象徴として批判されてきた労働教養制度の廃止に尽力したとみなされたからだ。労働教養制度は、司法手続きなしに最長で4年間拘束し、矯正目的で労働を強要する制度で、麻薬取引や売春などの他、陳情や反体制的な言論活動に従事する者に適用された。2013年11月の共産党第18回中央委員会第3回総会(三中総会)で、正式に廃止が宣言された。

 浦弁護士は労働教養制度の問題を追求するのに、ターゲットを重慶市に定め、労働教養処分を受けた十数人の処分撤回を求める訴訟の代理人を務めた。重慶市では、薄煕来が書記の時代に言論弾圧を強め、ネット上で政府批判の書き込みを行うなどした多くの人が労働教養処分を受けていた。

 重慶市彭水県の「大学生村官」(農村を活性化するために臨時で派遣される大卒の村役人)だった任建宇は、薄元書記の政治手法を「第二の文化大革命」と批判するなど、100件以上の書き込みをネット上で行ったことが問題視され、2年間の労働教養処分を受けた。労働教養施設では、1日約10時間にわたって、イヤホンなどを作らされ、心身の疲労から体重が15キロも減った。処分撤回の訴訟を起こした結果、任建宇は9カ月の労働教養期間を残して釈放された。

 浦弁護士は「陳情の母」と呼ばれた唐慧の損害賠償訴訟も担当し、二審で逆転勝訴した。唐慧は何カ月もかけて、不良に騙されて売春をしていた娘(2006年当時11歳)を取り戻し、売春施設や客を訴えようとしたが、警察は動かなかった。そして、責任者の厳罰を求めて陳情を繰り返す中で、1年半の労働教養処分を受けたのだった。唐慧に対する同情の声が大きくなるにつれ、政府系のメディアも数々の特集を組んで「陳情の母」の境遇を伝えるようになり、それが労働教養制度に対する関心を高めることにつながった。

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