WEDGE REPORT

SONYはなぜGoProを作れなかったか?
日本のモノづくりを考え直す時

川手恭輔 (かわて・きょうすけ)  コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

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ビジネスの現場で日々発生しているファクトを、時間軸の長い視点で深く掘り下げて、日本の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

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ゼロからの足し算

 ゴープロの仕様を見てみよう。レンズは170度という画角に固定されズームはできない。撮影の時や撮った映像を確認するための液晶モニターがついていない。激しく動くスポーツシーンでの使用やバイクやサーフボードに取り付けて撮影することを考えると必須と思えるブレ防止機能も搭載されていない。すでに存在するビデオカメラを基準にすると、このような引き算の考え方で見てしまう。

REUTERS/AFLO

 ニック・ウッドマンは02年にゴープロ社の前身のウッドマン・ラボ社を創業したとなっているが、デジタルカメラを発売するのは07年になってからだ。創業当初は、防水ケースに入ったレンズ付きフィルムカメラを腕に固定するバンドを作って売っていた。ニック・ウッドマンはサーフィンが大好きで、仲間たちが苦労して腕に括り付けたカメラで自分たちのライディング(波に乗ること)を撮影しているのを見て専用のバンドを作ることを思いついたそうだ。

 05年にはフィルムカメラを発売し、07年にデジタルヒーローというデジタルカメラを発売した。バンドからデジタルカメラを作ることまでには大きな飛躍があるが、ニック・ウッドマンは元来の起業家だった。そしてサーフィンのすごい映像を撮影できるカメラが欲しいという特別な情熱を持ち続けた。10年にハイビジョン撮影が可能なゴープロHDヒーローを発売したとき、ウッドマン・ラボ社は7人ほどの社員でハードウェアとソフトウェアの開発を行い、台湾のメーカーに生産を委託していたという。

 こういった状況でサーフィンを撮るための新しいカメラを考えるとき、何もないところから必要な機能だけを足していくことになる。ユーザーが使うかどうかわからない機能もとりあえず入れておこうということにはならない。これまでのビデオカメラの形状にとらわれることなく、腕やサーフボードに取り付けやすくデザインする。

 モニターを見たりファインダーを覗いたりしながら撮影することが難しい状況が多いからそれらははじめから不要であり、そうなるとだいたいの方向に向ければ撮りたいものが画面に入るように広角のレンズが必要になる。もちろんズーム機能は必要ない。ブレ防止機能はぜひとも欲しいところではあるものの、一般のビデオカメラについている手ブレ補正機能ではアクションカメラの利用シーンでの激しい動きに対応するには不十分であり、中途半端なものは搭載しない方がいいと割り切ってしまう。

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著者

川手恭輔(かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

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