WEDGE REPORT

2014年11月7日

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伊藤健 (いとう・けん)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科特任助教

1971年生まれ。米GE日本支社を経て、2010年より慶應義塾大学政策・メディア研究科特任助教。アジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク日本アドバイザー、SROIネットワークジャパン代表理事。

社会的効果を測定する「ベンチャー・フィランソロピー(VP)」。課題解決を志向する社会投資へ。

英国生まれの「社会インパクト債券」

 新しい社会的投資市場の成長がグローバルに注目を集めている。2013年6月に開催されたG8サミットでは、デビッド・キャメロン首相の主導で「社会的投資」が主要テーマとして議論された。その政策のショーケースとも言えるのが10年に英国で開発され、現在は米国、豪州でも導入が進む、社会課題の解決を目的とした「社会インパクト債券」(Social Impact Bond)だ。

 SIBは14年4月現在で、受刑者再犯防止、ホームレス社会復帰、児童養護などで世界で20件以上実績があり、これまで民間投資の対象とされなかった社会的事業をその投資対象とする。

 例えば、英国におけるSIBの一つ、ホームレスの社会復帰プログラムに対する投資プログラムは、ロンドン市と英国のコミュニティ・地方自治省が12年に共同で特定目的会社(SPV)を設置、4年間の償還期間で、民間投資家から200万ポンド(約3.5億円)を受け入れた。

 この「債券」に元本保証はないが、もし事業が順調に成果を上げた場合には、発行元となったロンドン市が、元本とリターンを合わせて最大500万ポンド(約8.6億円)の支払いを保証する。

 SIBは「事業の収益ではなく、事業の社会的成果に応じて投資リターンが決定される」仕組みが特徴だ。先述のケースでは、事業の対象となったホームレスのうち、路上生活から定住し、社会復帰を果たした割合により、その投資リターンが変動する。当然ながら、その成果がターゲットに達しなかった場合には、投資家は元本を失う可能性もある。

 高額のプレミアムにもかかわらず、ロンドン市当局が「債券」の発行に踏み切った背景には、強い財政圧力がある。10年に発足した英キャメロン政権は4年間で810億ポンド(約14兆円)の予算削減による財政健全化を推進中だ。その秘策として採用されたのが、民間資金による「社会的投資」による社会課題の解決策だ。

 ロンドンにおけるホームレス対策の行政コストは、医療、シェルター、カウンセリング等、ホームレス1人あたり5年間で3.7万ポンド(約630万円)。もし今回の投資により、約800名のホームレスが全員社会復帰すれば、今後5年間の便益は3000万ポンド(約51億円)。単純計算で11%程度のホームレスの社会復帰が、200万ポンドの投資の採算分岐点となる。それ以上であれば、投資家にプレミアムを付けて投資を償還することができる。つまり、民間資金による投資で、行政は事業リスクなしに、コスト削減が実現でき、民間投資家は新たな社会的投資機会を得、事業が順調に進展すればリターンを得るというウィン・ウィンが実現することになる。

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