――涙にもいろいろありますが、どのような涙がストレスを軽減させるのですか。
吉田:涙には、3種類があると言われています。眼の角膜が乾燥しないために出る「基礎分泌の涙」、ゴミやタマネギの汁で角膜が傷むのを防護するために出る「反射の涙」があり、これらの涙はストレス解消には効きません。もうひとつの悲しいときや感動したときに流れる「情動の涙」に高い抗ストレス効果があります。中でも他者への共感から生まれる「感動の涙」には、緊張、不安、敵意などのネガティブな気分を解消させる効果があることが分かっています。
人は何かに感動し涙を流すとき、内側前頭前野で血流増加が起こります。それが自律神経に働きかけ、緊張やストレスに関係する交感神経から脳がリラックスした状態の副交感神経へとスイッチが切り替わります。もう少し専門的に言うと、前頭前野が激しく興奮し、その信号が下行性の司令となって脳幹の上唾液核に入力され、その際に副交感神経の活動亢進(こうしん)が起こるのです。それが涙腺から大量の涙を分泌させます。
交感神経と副交感神経が、一定のバランスを保ちながら働くことで精神的な健康が保たれるのですが、ストレス社会に生きる私たちの体内では、交感神経の働きが過度に高まり、その状態が持続しがちです。心身がリラックスするべき時間帯や場所でも、うまく切り替えができず、ストレスを受け続けている。この状態が不眠や抑うつ状態などを招く要因につながることは多くの人が指摘しています。
涙には、睡眠と同じ副交感神経への切り替え作用がありますので、動画や音楽による「涙活」により短時間で泣くことができたら、それで副交感神経への切り替えができ、スピーディーにストレス解消効果が得られます。
ストレス成分を体外に排出する涙
―― もう少し科学的な根拠(エビデンス)を教えてください。
吉田:東邦大学名誉教授で脳生理学者の有田秀穂先生が実施したPOMS心理テスト結果から証明できています。POMS心理テストとは、脳の活性度を調べる際に使用するテストで、「緊張・不安」「抑うつ」「怒り」「活力」「疲労」「混乱」の6つの尺度で、その時の気分の状態を測ります。映画を見て涙を流した人の泣く前と泣いた後の状態を調べたところ、どの尺度でも半数以上の被験者に改善が見られました。
また、アメリカの生化学者、ウィリアム・フレイ2世博士の実験です。博士は「涙は感情的な緊張によって生じた化学物質を排出する役割を担っているのではないか」という仮説を立て、80人の被験者に涙を誘う映画を見て流した涙と、玉ねぎの刺激物質によって流した涙の成分を比較しました。