2024年4月19日(金)

中国メディアは何を報じているか

2014年12月16日

 中国で汚職高官が次々に生まれるのは欧米による陰謀に乗せられたからだといわんばかりの主張には失笑を禁じ得ない。習近平政権は軍高官の汚職の取り締まりも強化しており、12月中旬までで元制服トップの徐才厚・元中央軍事委員会副主席を除き、9人の将軍が逮捕されている。中でも楊金山中将の処分は2014年10月に開かれた党の18期4中全会で審議され、発表されるという異例なものだった。そしてもう一人は「較量無声」の中でインタビューを受けて答えていた于善軍少将だ。

 于少将は、ドキュメントで軍の情報、要害部門において情報の売買が行われ、国を裏切り、敵に寝返る事件が相次いだが、これは敵の浸透によるもので、商業的利益に目が眩んで、賄賂を受け取っていると指摘した。米国は中国軍の高官についての個人的情報を収集し、獲物を探してきたというのだ。汚職官僚は海外に資産を移しており、それは米国の情報部門によって情報は掌握されているという。その目的を達成させないため、経済的腐敗を政治的腐敗に転化させ、思想的転変を政権的転変に転化するのを防止せよと訴えた。

 こうした転変は少数の学者や官僚が反党、反国家、売国の意見を主張する事によって容易になっているという。驚くのは「較量無声」では北京大学教授の籍を追われた夏業良、ノーベル賞を受賞した劉暁波、著名な経済学者である茅于軾、法学者の賀衛方といった学者の名前や顔も映され、犯罪者扱いされていることだ。またこうしたリベラルな学者だけでなく、法輪功、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)というような組織に対しても憎しみを露わにしている。シンポジウムで「外部勢力による転覆の陰謀」を強調した軍の将軍たちは概ね同じようなスタンスから王占陽教授に対して激しい反対議論をぶち上げたのである。

『遼寧日報』2014年11月13日
http://epaper.lnd.com.cn/lnrb/20141113/index.htm

 保守派が危惧を抱いているのは軍だけではない。教育機関でも同様であり、例えば中国社会科学院の会議においてドキュメントにも出ている李慎明副院長も欧米による思想的浸透に警戒感を持つよう呼びかけているし、遼寧省の新聞紙は、大学の教員として中国に批判的な事を学生に教えるな、という趣旨の論説を掲載した。中でもリベラルで知られる『炎黄春秋』誌や茅于軾氏率いる天則経済研究所は保守派の激しい攻撃を受けている。

 薄熙来事件以降、中国政治ではこれまでにないほどの激震が起きているが、それは激しすぎるほどの汚職官僚の摘発、機構改革という二つの政策が同時に展開されている事を受けてのものだ。民主や自由といった普遍的価値を巡る論争も「西側敵対勢力による転覆」の試みの一部と捉えられる。中国国内の政治論争は一層激しさをましているが、シンポジウムでの議論は中国共産党支配の揺らぎを露呈したといえる。

  
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