経済の常識 VS 政策の非常識

2015年2月2日

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 トリクルダウンという言葉がある。豊かな人々がもっと豊かになれば、やがてその豊かさが下にも落ちてきて貧しい人も豊かになれるという議論である。アベノミクスで株が上がれば、そのおこぼれは皆に回ってくる。円安で輸出大企業が利益を上げれば、それは労働者や下請けにも回ってくるという議論である。

 だが、そんなものは自分のところに落ちてこないと、多くの人はトリクルダウンに懐疑的である。しかし、私は、トリクルダウンがないはずはないと思う。豊かな人がまず豊かになるのだから、それが所得分配を平等にすることはないが、理屈から言って、おこぼれがないはずはない。

トリクルダウンはある

 豊かになった人は、そのより豊かになった部分を、貯蓄をするか消費をするかしかない。貯蓄は必ず投資されるはずだから、投資が増える。国内で投資が増えれば、必ず誰かを雇うはずである。雇用が増えれば、トリクルダウンがあったことになる。海外に投資したのでは、海外で雇用が増えるだけだから、日本国内にはトリクルダウンがない。しかし、海外ではトリクルダウンがあったはずだ。

 こう言うと、多くの人は、海外でトリクルダウンがあっても仕方がないと怒るだろう。怒るのはもっともだが、日本は、海外投資を活発にして、投資収益で食べてゆくべきだという議論が盛んになされた時代もあった。GDP(国内総生産)ではなくて、GNI(国民総所得)が重要だという議論もあった。GDPは国内で生産されたものの合計、GNIは国民の得た所得の合計である。日本人が国外への投資によって得た所得は、GDPには入らないが、GNIには入る。だから、GDPではなくて、GNIが重要なのだという議論である。

 この議論は、数年前に盛んになったと思うが、その時に、海外で投資をすれば国内の雇用は増えず、投資できる人々、すなわち、金持ちを利するものだから反対だという議論は聞かなかった。海外へのトリクルダウンに反対なら、GNI重視論にも反対すべきだったと私は思う。

 投資をするのではなくて消費をすればどうか。消費すると言っても、同じものをさらに数多く買うことにはあまりならないので、豊かな人は、贅沢な車や時計や靴を買ったり、高級レストランに行ったりする。高いものを売っている人には、おこぼれがあるはずだ。売っている人は、特に豊かな訳ではないから、ここで必ずトリクルダウンとなっている。

CAIAIMAGE/TOM MERTON/GETTY IMAGES

 しかし、ここでもトリクルダウンが海外に漏れる。高級品は海外製品であることが多く、国内でおこぼれにあずかるのは、レストランを除けば、それを作っている人ではなくて、それを売っている人だけでしかない。

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