中国には「上に政策があれば、下に対策あり」という言い方がある。地方が中央の方針に従わない状況をうまく言い表している。今や「下」というのは地方政府だけでなく、企業や団体など多岐にわたっているため、中央が「下」に方針を履行させることはますます難しくなっている。「下」が全く従わない場合中央は人事権を行使する。しかしそれに行き着くまでに中央は「下」に従わせようとする。その手段として今回取り上げる「約談」がある。
「約談」は文字通りには、事前に約束をして会って話をすることなのだが、行政行為としての「約談」は上級行政組織が下級組織に対し問題是正のために行う行政指導に近いものがある。ここでは「約談」という言葉をそのまま使うことにする。
行政行為としての「約談」が注目されたのは2010年ころである。しかし当時は中央政府の企業に対する行政指導として注目された。しかし、今回「約談」に注目するのは、中央政府が直接企業に対し行政指導を行うのではなく、その企業が立地する地方政府に対し行政指導を行い企業活動の問題点を改善させるというこれまでとは異なる構図が見られるからである。
環境保護基準を遵守しない企業を是正するために、環境保護部はその企業が立地する臨沂市政府と承徳市政府とのあいだで「約談」を行った。これを報じた『人民日報』と中央テレビの番組「焦点訪談」をもとに、「約談」の様子を紹介し、その意義を考えてみたい。
『人民日報』はどう伝えたか
2015年2月28日付『人民日報』が4面の記事としてこの「約談」を次のように報じた。
環境保護部が2月27日メディアに対し、山東省臨沂市政府と河北省承徳市政府の主要指導者と公開約談を行い、地方政府に環境保護責任を厳格に実施するよう督促したことを通報した。
2月25日に環境保護部華東環境保護監察センター主任の高振寧は臨沂市党委員会副書記兼代理市長の張術平と約談を行った際、1~2月に実施した特定監察行動で企業15社のうち13社に環境違法行為が存在したことを指摘した。張代理市長は「市党委員会と市政府は約談で提出された各要求を真剣に実現し、期限までに任務の改善を完成させる」と表明した。
2月26日に環境保護部華北環境保護監察センター主任の劉長根は承徳市長の趙風楼と約談を行った際、2月の冬季大気汚染防止特定監察で一部の企業の違法汚染排出の状況が重大であることを発見したと指摘した。承徳市は京津冀地区(北京市・天津市・河北省)で2014年に大気汚染が悪化した唯一の地級市(省の一つ下の行政レベル)であり、趙市長は「断固実行に移し、しっかりと重大な環境問題を解決する」と表明した。