英国メディアの光と影

『ジャーナリズムは再生できるか』


中村宏之 (なかむら・ひろゆき)  読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

オトナの教養 週末の一冊

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英国メディアの全体像がつぶさにわかる力作である。筆者(中村)も特派員としてロンドンに駐在して実感したが、英国は米国と肩を並べるメディア大国という印象をずっと持っていた。あらゆる種類の全国紙があるほか、各地域に独自の地方紙がある。BBCをはじめテレビ局やラジオ局の数も多い。特派員時代には主要紙を自宅や支局で購読していたが、とても全部の新聞を細かく読むことはできず、短時間で読みこなす力量も乏しかったので、ニュースのポイントを拾い読みしていた。日々、多くのニュースに接する中で、その速さや深さ、分析力の鋭さなど、英メディアの持つ力に敬服していた。

 本書も指摘するように、英国のメディア環境は、日本と似ている面もあるが、報道の姿勢や実際の報道ぶりは大きく違う。とにかく批判精神が旺盛で、タブロイド紙の一面などでは大きな活字でデカデカと報じる。王室や政治家、著名な経済人、芸能人などは格好のターゲットだ。タブロイド紙が「特ダネ」として報じたニュースを、BBC やザ・タイムズなどの主要メディアが真剣に追いかける展開もしばしば見られる。大衆紙といえども決してあなどれず、それぞれのメディアが自分の「ポジション」をしっかり確保して勝負しているという印象が強い。

 その分、取材合戦は激しく、実際のところ「何でもあり」である。それゆえに、時に、行き過ぎた取材も起こる。誘拐・殺害された13歳の少女の携帯に残された両親からの留守電メッセージを、記者が盗み聞きした後に削除し、両親に彼女がまだどこかで生きていると期待させるという信じられないような不祥事も生まれてしまうのである。

英メディアのダークサイドから学ぶ

 本書を読み進めると、長いメディアの歴史の中で、メディアと時の政府との関係は、常に緊張感やリスクをはらんでいたという事実に、あらためて気づかされる。加熱する王室報道、BBCと政府との対立、日曜大衆紙『ニューズ・オブ・ザ・ワールド』の廃刊など記憶に残る「事件」というべき出来事も多い。

 特に5章の「ゆらぐ公共放送BBC」と6章の「多発する不祥事と英国ジャーナリズム」は、21世紀に入って以降の英メディアの課題を浮き彫りにしている。その詳細な内容は本書に譲るが、こうした出来事を踏まえて、英メディアの「ダークサイド」は事実として受け止め、学ぶべき部分は少なくない。まさに日本も「他山の石」とすべきものである。

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「オトナの教養 週末の一冊」

著者

中村宏之(なかむら・ひろゆき)

読売新聞東京本社調査研究本部 主任研究員

1967年生まれ。91年、慶應義塾大学経済学部卒、読売新聞東京本社入社。福島支局、立川支局、経済部、政治部、ロンドン特派員、米ハーバード大学国際問題研究所研究員、経済部デスクを経て2014年より現職。著書に『世界を切り拓くビジネス・ローヤー』『御社の寿命』、(いずれも中央公論新社)など

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