小川さやかのマチンガ紀行

2015年7月29日

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小川さやか (おがわ・さやか)

立命館大学 先端総合学術研究科准教授

立命館大学先端総合学術研究科准教授。1978年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。国立民族学博物館などを経て現職。著書に『都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)。

 ところで、エム・ペサは、タンザニアの人びとにとって、銀行サービスを代替するとともに、銀行サービスと連携した新しいサービスや銀行サービスにはない独自のサービスも提供している。故郷への送金以外のエム・ペサの使い道をみてみよう。

エム・ペサの代理店

 まず、公共料金の支払いである。電気料金を例に説明したい。都市に出稼ぎにきた者の多くは、大家業を営む家の一部屋を賃貸している。通常、大家業を営む家屋は中庭を5つから10ほどの部屋がコの字に囲むつくりになっているが、日本でいう長屋のようなしくみになっている。

 エム・ペサが普及する前は、長屋ごとに電気のメーターが設置され、毎月使用した分を、各部屋を賃貸している者たちが割り勘して支払う決まりとなっていた。この決まりは、大家にとってなかなか頭の痛い事態を招いていた。

電気料金の支払いにも使うようになる

 というのも、各部屋から電気代を徴収するのは至難の業で「いま手持ちがないから、一週間だけ待ってくれ」と泣きつかれたり、居留守を使われたりして、結局、電気が止められてしまうことがままあったのだ。それに「使用後に割り勘」というやり方は、住民のあいだの諍いの元だった。「うちにはテレビも冷蔵庫もないのに、なんで電気代を払う必要があるのか」「こんなに電気料金が高いのは、洗濯屋をしているあそこの家で一日中、洗濯機とアイロンを使っているせいだ」ともめるのだ。

 エム・ペサが普及すると、事態は一変した。電気料金の支払いが通話料と同じようにプリペイド式になり、電気の使用が止められても、居住区から街中の電力供給公社までバス賃を払って出向き、面倒な再開の手続きをしなくてもよくなったのだ。

 停電すると、誰がいくら出すかを含めて、その時に出せる金額を長屋の住民どうしで相談しあい、電子マネー化して大家のエム・ペサ口座に入金する。

 そして、「*150*00#」にダイヤルし、メニューから「エム・ペサを通じた支払い」を選択。「ルク(電気)を購入」を選択し、利用者番号や送金額を入れると、14桁の番号がもらえる。この番号を電気メーターに入力するとすぐに電気が使えるようになるのだ。

 このプリペイド式は大家の悩みを解決しただけでなく、賃貸人たちにとっても、今月はいくら電気料金を払うことになるのかとびくびくし、他所の部屋の電気の使い方に目を光らせながら、電気料金を予測し、その分のカネを月末までに残しておかなければならないという憂鬱さを解消した。

 日雇いや零細商売の手取りは安定しないので、月末までに計画的に貯金すること自体が困難であるし、家計はいつもカツカツなので、ふつうに電気を使うと支払いに困る事態になる。

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