タンザニア人の生活に
中国製スマホ・ケータイが浸透したわけ


小川さやか (おがわ・さやか)  立命館大学 先端総合学術研究科准教授

立命館大学先端総合学術研究科准教授。1978年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。国立民族学博物館などを経て現職。著書に『都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)。

小川さやかのマチンガ紀行

タンザニアの零細商人「マチンガ」。自らもマチンガの一員となるなどして、彼らの生態を研究してきた筆者。そこから見えてくるタンザニアの人々の現在と、中国をはじめとしたグローバル経済とのつながりを綴る。

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都市下層の若者のあいだでスマートフォンが普及しはじめるのは、2010年代に入ってからのことだ。現在、中国製の安価なスマートフォンの輸入に伴い、猛烈なスピードで浸透しつつある。

 このスマートフォンの登場は、タンザニアの人びとにとって、偽物やコピー商品の問題をつよく認識させることになった。2000年代には中国製品のコピー商品や偽物がタンザニア市場を席巻し、2010年には「チャカチュア(Chakachua)」という「まがいもの」を意味する俗語が流行語になった。

正規ものが手に届かないから偽物が流行る

中国広州で筆者が発見したパチ物スマホ

 なかでもスマートフォンはハイテク機器であり、見た目で品質を見破るのは難しいうえ高額である。スマートフォンが登場した結果、インターネット機能のないケータイは正規品が最安値で2万シリング(約1200円)前後でも手に入るようになったが、スマートフォンは最低でも10万シリング(約6000円)はかかる高価なものだ。

 タンザニアの人びとはコピーや偽物ケータイについて、「1年以内に壊れるから、10カ月くらい経ったら転売する相手を探したほうがいい」「メモリーが小さく、ひどいものは写真を数枚撮っただけで一杯になる」「ネット接続がうまくいかなかったり使えないアプリがあったり、タッチパネルが動かなくなったりする」などと語る。

大金を払って買ったケータイがすぐに壊れたり、問題があることを発見した時のショックは、どんなに高くても数万シリング以内の衣類や雑貨とは比べ物にならない。実際にスマートフォンのコピー品の混入率は高く、あるケータイ輸入商はタンザニアの市場に
出回るサムソンの6割近くがコピーだと語った。

 そのため、偽物の見破り方もよく語られる。たとえば、(1)電源を入れると異なる会社名が表示される/特定の番号を入力しても製造年などが表示されない。(2)箱の記載や付属品と本体のメーカーが異なる。(3)SIMカード挿入口が二つある/四つある。(4)タッチパネルやキーボードの調子が悪い。(5)音漏れする。(6)重い。(7)切り替えられる言語が多いなどがよく指摘される。

 これらの見分け方は全く無根拠なものでもないが、偽物であることを証明する十分条件でもない。コピー商品や偽物は特定の見極め方が広まると、それに応じた品が出回るという「いたちごっこ」で成り立っている。また、ノキアやサムスンの最新モデルの正規ケータイはどちらみちタンザニアの大多数の若者には手が届かないことも、偽物やコピーの氾濫をもたらした原因である。

 たとえば、ヴォダコム社が最新機種として売り出しているサムスンのギャラクシーS5は正規価格で135万シリング(約8万円)である。だが、建築現場の日雇労働の日当は7千シリングから2万シリング(400〜1200円)だから、この正規価格は運よく毎日仕事を見つけたとしても月給の何倍もするものだ。

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「小川さやかのマチンガ紀行」

著者

小川さやか(おがわ・さやか)

立命館大学 先端総合学術研究科准教授

立命館大学先端総合学術研究科准教授。1978年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。国立民族学博物館などを経て現職。著書に『都市を生きぬくための狡知 タンザニアの零細商人マチンガの民族誌』(世界思想社)。

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